近年、札幌市と札幌近辺の地域には学力の高い私立中学が増えていますが、公立の中学校でも依然として学力の高い学校が幾つかあります。それらの中学校は、伝統的に「3K2F」と呼ばれています。生活圏の変化により多少の学力の変動はあり、また他の優秀な中学校も出てきていますが、札幌でよく知られている点で今回は「3K2F」の中学校を紹介します。この「3K2F」の呼び方はかなり古く、「他の平均的な中学校と比べれば学力は明らかに高い」という認識で見られています。
「3K2F」とは? それぞれの概要を紹介!
以上の五つの中学校の頭文字をまとめて「3K2F」と呼んでいます。では、各学校の概要を見ていきましょう。
◇向陵中学校
(札幌市中央区北4条西28丁目1-30)
向陵(こうりょう)中学校は、1947年4月に開校した公立中学校です。
円山小学校、宮の森小学校、日新小学校、桑園小学校などから生徒が入学してきます。
他の中学と比べ生徒数が多くなる傾向があり、2020年度では、計897人の生徒が在籍していました。
札幌の中心部からはかなり西側にあり、また大通りや円山近辺の他の3K2Fのグループの中では元からの所在地がかなり北側にあります。昭和初期の時代から北海道大学の関係者がこの桑園〜札幌の地区に多く住んでいたことから、向陵中学校は知識・学識に関わる仕事に就いている人の家族が多く通い、学力レベルが上っていきました。
2021年4月現在、向陵中学校には以下の部活動があります。
- 野球部、
- サッカー部
- 陸上部
- バスケットボール部
- バレーボール部
- ソフトテニス部
- 卓球部
- 吹奏楽部
- 美術部
- 科学部
- 茶道部
向陵中学校は、札幌市内でも有数の学力を誇る中学として有名です。そのため、難関とされる高校を受験する生徒が多く、札幌西高校、札幌北高校、札幌南高校、札幌東高校、札幌旭丘などの難関高校に多くの生徒が進学しています。向陵中学校の学力が高いという評価は、後に生徒数の増加で分離独立した「宮の森中学校」も非常に高い学力があることで、この区域全体の学力が高いという評判に変わってきています。
◇柏中学校
(札幌市中央区南21条西5丁目1-2)
柏(かしわ)中学校は1947年4月に開校した学校ですが、その前身は1931年に開校し、1947年に閉校した札幌市第二高等小學校です。
柏中学校は、主に幌南小学校、山鼻小学校、山鼻南小学校(旧南小学校)などから生徒が入学してきます。
全校生徒は2021年4月1日時点で、計458名が在籍しています。
1979年には、北海道教育実践校として表彰を受けています。
2021年4月現在、柏中学校には以下の部活動があります。
- サッカー部
- 野球部
- テニス部
- 陸上部
- バドミントン部
- 卓球部
- 男子バスケットボール部
- 美術部
- 吹奏楽部
- 科学部
柏中学校からの卒業後の主な進路は、札幌西高校、札幌東高校、千歳高校、旭丘高校などの公立高校の進学校が多いようです。また私立高校では、光星高校、科学大学高校、北海学園札幌高校、札幌龍谷高校などが多いようです。相対的に3K2Fのグループの中では、近年あまり学力が高いと言われなくなって来ていますが、それでも他の平均的な学力の中学校と比べれば学力が十分に高いのは確かです。
◇啓明中学校
(北海道札幌市中央区南9条西22丁目2-1)
啓明(けいめい)中学校は、1947年4月、札幌市立第六中学校として創立した学校です。その翌年、札幌市立啓明中学校に改称しました。
啓明中学校は、幌西小学校や緑丘小学校、二条小学校など比較的規模の大きい小学校から生徒が入学するため、生徒数が多くなる傾向があります。
2020年度のデータでは、生徒数は約830人程となっていますが、800人以下の年度もあります。
科学技術教育にも注力してきた学校で、1970年にはその実績が評価され、科学技術庁長官賞を受賞しています。また、啓明中学校は札幌市が指定する『研究先進校』の一つです。同市の修学旅行研究校・科学教育研究校・道徳教育研究校の指定を受けています。
2021年4月現在、啓明中学校には、以下の部活動があります。
- バスケットボール部
- 野球部
- バドミントン部
- ソフトテニス部
- バレーボール部
- サッカー部
- 陸上部
- 卓球部
- 吹奏楽部
- 美術部
- 演劇部
- 合唱部
- 英語研究部
啓明中学校は進学先にも学力の高さが見られます。札幌南高校・札幌西高校・札幌北高校・札幌東高校、札幌旭丘など難関の公立校・私立校に進学する生徒が多数います。啓明中学校は、国立大学付属の「附属中」を除けば札幌市立で最も学力が高い中学校と言われています。
◇伏見中学校
(札幌市中央区南16条西17丁目1-35)
伏見(ふしみ)中学校は、1961年に啓明中学校と柏中学校より分離独立して開校されました。
開校時に建設された校舎は、内部が3階まで吹き抜け(アトリウム)になっていましたが、2005年に老朽化で解体され、新校舎が建設されました。また、1991年には近隣に山鼻中学校が開校し、伏見中学校から分離独立されています。
生徒数は2021年時点で通常学級574人、特殊学級14人で計588人となっています。
伏見中学校は、札幌市教育委員会より社会科教育・視聴覚教育・特別活動などの研究校としての指定を受けています。
2020年の時点で、部活動には以下の部があります。
- 野球部
- サッカー部
- 男子ソフトテニス部
- 陸上競技部
- 男女バスケットボール
- 男女バドミントン部
- 女子バレーボール部
- 柔道部
- 合唱部
- 吹奏楽部
- 美術部
進学や学力についてはの札幌市内の中学校との差別化を図るべく、定期テストもやや難しい問題になっているようです。このため、必然的に校内の平均学力は高めとなり、高校には札幌西高校、札幌南高校、札幌北高校、札幌東高校、札幌旭丘高校など難関校に進む人も多くいます。札幌市立では啓明中学校が最も高い学力があると言われていますが、この伏見中学校は啓明中学校の隣の地区のため、同じ学習塾に通う生徒も多く、依然として高い学力を維持しています。
◇北海道教育大学附属中学校
(札幌市北区あいの里5条3丁目1-11)
3K2Fと呼ばれる名門中学校の中で附属(ふぞく)から頭文字のFをもって呼ばれているのが北海道教育大学附属中学校です。その歴史は非常に古く、明治16年の札幌県師範学校が設立された際に創成小学校を附属校とするところから始まっています。その後、南2条西15丁目、南22条西13丁目へ移転し、昭和63年に現在の北海道教育大学のある北区あいの里に移っています。
生徒数は2021年時点で336人です。
国立大学法人としての役割もあり、教育実習や大学・学部における教育に関する研究への協力をしているのが特徴です。また、附属小学校もあるため、全体の7〜8割が附属小学校からそのまま上がってきます。その他に約30人程度が中学受験を経て入学してきます。
教育大学附属札幌中学校の部活動は、主に9部あります。
- サッカー部
- ソフトテニス部
- 男子バスケットボール部
- 女子バスケットボール部
- 剣道部
- 卓球部
- バドミントン部
- 美術部
- 合唱部
附属中学校の生徒は非常に学力が高く、高校進学は札幌南高校と札幌北高校が特に多いです。また札幌西高校、札幌東高校、札幌旭丘高校などほとんどがトップクラスの高校に進んでいます。この附属中学校の生徒の大半が附属小学校にいる時代から学習量が極めて多く、その生徒たちに加えて他の小学校から中学受験を突破した子どもたちが入学してきます。学力は別格という意味で、札幌市立の中学校とは異なり国立大学の附属校という点も含めて本来は同じグループには数えられない面もあります。長い間、現在の山鼻中学校のある場所に附属中学校があったという環境の由来もあり、3K2Fという呼ばれ方になった経緯があります。
3K2Fの共通点は?
名門中学校に数えられている3K2Fの5校ですが、教育大学の附属中学校以外は円山近辺のエリアに学校があります。また附属中学校も以前は円山近辺にありました。では、円山近辺の区域の特徴として、どのようなものがあるのでしょうか。
- ①札幌を代表する高級住宅地である
- ②国家公務員の宿舎が多い
- ③本州の大企業の社宅が多い
以上の3点が挙げられます。では、順に見ていきましょう。
①「札幌を代表する高級住宅地である」について
札幌の市街地は、地下鉄が造られるよりも以前から路面電車が発展し、昔は路面電車が3路線もありました。その路面電車に沿って住宅地と商業施設が増えていき、大都市となっていく札幌の中心的な区域が大通り付近と円山付近でした。そして次第に商業施設が大通り付近に集まり、住宅地が集まる円山付近は札幌の中でも特に高級な住宅エリアになっていきました。
円山という閑静な土地と、北海道神宮などの神聖な場もあることなどで、住みよい環境となり、そこに富裕層が集まります。塾などの教育熱も競争するように盛んになり、この円山近辺が先行して「勉強する区域」になっていきました。
②「国家公務員の宿舎が多い」について
国家公務員の試験は難関です。そこに合格して国家公務員として働く人とその家族が国家公務員宿舎に住んでいます。札幌出身者とは限らず、国家公務員は全国中を転勤します。
国家公務員のような高い学力を持つ親は、自分の子供にも当然のように高い学力を求めます。その子どもたちが通う学校の区域内に啓明中学校、柏中学校、伏見中学校などの中学校があった、という経緯です。かつては同じ区域に附属中学校もありました。札幌を含む北海道は、首都圏や京阪神、中京圏などと比べると学力がやや劣ります。
全国の中でも学力の高い地域から転勤して来たり、学力の高い地域へ転勤することも考えると、その学力レべルについていけるように普段からよく勉強するのが当たり前になっていくようです。
③ 「本州の大企業の社宅が多い」について
この「本州の大企業」という表現は、地元の札幌の企業なら、たとえ日本を代表する大企業でも円山の区域に住むことなく通勤可能という意味で、あえて「本州の大企業」としました。
これは②「国家公務員の宿舎が多い」と同様に、東京などに本社を置く大企業の札幌支社に社員を住まわせるための社宅が円山の区域に多数ある、ということです。元から札幌に住む家族が円山近辺の社宅に入ることもできるかも知れませんが、ここでは首都圏などへの転勤の可能性がある人たちが首都圏などの進んだ学習状況に適応するために普段から高い学力を維持しようと考えている、と見ておくのが妥当です。
やや極端に言えば、東京の学力レベルの子たちが一時的に円山近辺に来て、その高い学力の子たちが毎年転校で入れ替わっていくのが続いている、ということです。
3K2Fと並ぶ学力の公立中学校はあるの?
昔から名門と呼ばれる「3K2F」ですが、その他にも学力の高い公立の中学校が幾つかあります。それは、その「3K2F」の各学校の生徒数が増えた時期に、すぐ近くの隣接する地区に新設された中学校の幾つかがが該当します。
代表的な例をあげます。
◇宮の森中学校
(札幌市中央区宮の森1条16−5−1)
まず、向陵中学校に隣接する地区の「宮の森中学校」です。向陵中学校は学校の立地が3K2Fの中で西側、北側に位置していると先述していますが、「宮の森中学校」はその向陵中学校が大規模になったために学区を分けるように設立され、そのまま高い学力層のエリアを延長するような形で進学校になっていきました。向陵中学校がもうひとつ増えたようなものと思えば学力が高くて当然という理解もできます。今や札幌市立で最も学力の高いと言われる啓明中学校と肩を並べると表現してもおかしくないくらいの高い評判があります。
◇山鼻中学校
(札幌市中央区南23条西13丁目1)
もうひとつは、伏見中学校と柏中学校に隣接する地区の「山鼻中学校」です。ここには元々、教育大学附属中学校の校舎があったため、勉強が進んでいる地区として最初から違和感なく学力の高い生徒が多数いる環境がありました。そのため、開校以来ずっと高い学力を維持し、現在では啓明中学校に並ぶくらいの非常に優秀な学校という評判が出ています。学校としてのスタートが後発のため、昔から呼ばれる3K2Fという言葉が先に定着していた、という点で「山鼻中学校」は知名度がまだ3K2Fに及ばないだけで、札幌市立の中学校ではトップクラスの学力があります。
この「宮の森中学校」と「山鼻中学校」により、「3K2Fの呼び方はもう古い」との声も聞かれるくらいです。
まとめ
今回は札幌市の円山近辺のエリアを中心にした「3K2F」と呼ばれる学力の高い名門中学を紹介しました。生活環境が「いつも勉強して進学校に行くのが当然」という環境で、一人ひとりの勉強に取り組む姿勢や習慣ができあがっています。このような環境に身を置くと、自然に「よし、自分も少しはやろうかな」という気が起こります。
もし、そうではない環境にいる場合は注意が必要です。勉強するのが大切なことであると気づかず、「周りの子たちが勉強してないから自分も勉強しなくていい」という口実ができてしまいます。
忘れてはいけないことは、3K2Fくらいの、これくらい勉強している中学校の子たちと高校受験で対戦するということです。自分の住む地区の人たちと競うのは学内のテストだけです。学内での順位に満足せずに、札幌全体の中での学力差も気に留めておきましょう。