最近、子供は親を選べないことを揶揄(やゆ)して、親ガチャという言葉が言われるようになっていますが、親が低所得なせいで子供の学歴に影響が出てしまうというのは本当なのでしょうか。
今回は、低所得は学歴に影響するのか、そして学歴が低いことで将来困ることはあるのかをマナビバが解説していきます。
低所得なことが学歴に影響することはあるの?
低所得は学歴に大きな影響があります。
全世帯の大学進学率が70%を超すのに対して、生活保護世帯では半分以下の33%まで進学率が下がるという数字は、このことをわかりやすく示しています。
なぜ、これほど進学率に差があるのか。それには3つ理由があるので、一つ一つ解説していきます。
塾・家庭教師など教育にかけられるお金が少ない
まず、低所得だと塾や家庭教師のような学校外の教育にかけられる費用が低くなります。年収300万円以下の世帯では、月に1万円以上の学校外教育費をかけているのは19.9%しかいませんが、年収1000万円以上の世帯では52.5%もいるのです。
受験というのはシビアな戦いなので、自力で戦い抜ける子供はあまり多くありません。教育への投資で差がつくことで、大学受験もそうですが、その前段階である高校受験の段階でも大きな差がついています。
在籍する高校の偏差値が低くなりがち
次に、世帯年収ごとの子供の在籍高校の偏差値の割合を見ていきます。
世帯年収300万円以下だと、高校偏差値44以下が34.6%を占め、65以上は9.6%しかいません。対して、世帯年収1000万円以上では、高校偏差値44以下は7.6%で偏差値65以上は38.4%に上ります。
受験において自分が身を置いている環境というのはとても重要です。周りは誰も大学受験なんて考えておらず、毎日バイトや何をして遊ぶかという話しか出てこない環境で、誘惑を断ち切り毎日勉強を続けるのはとても難しいことです。
進学校では、周りがみんな勉強しているので、周りの友達に合わせるだけでも、大学受験に必要な基礎を固められます。
また、偏差値が低い学校の授業は受験を想定したものではありませんが、進学校では受験に必要な学力をつけることを想定して授業をします。そのため、ただ授業を聞いているだけでも、大きな差が生まれるのです。
低所得世帯の高校生の進路選択 ―パネルデータを用いた「貧困の連鎖」に関する検討―
https://kodomogakkai.jp/pdf/18_kimura.pdf
高校卒業後の進路に制限がかかってしまう
低所得なせいで、子供を大学に行かせるお金がない。
そのため、高校卒業後すぐに子供を就職させるといったことは、実際によく聞く話です。
地方であれば地元に大学がなく、大学進学となると学費だけではなく生活費も必要となり、大学に行かせるハードルは高くなります。
都心部でも、国公立大学のレベルが高すぎて、行けそうなのは私立大学のみだけど、私立は学費が高くて無理ということもあるでしょう。
いずれにせよ、低所得なせいで進路の選択肢が狭まってしまうことがあるのです。
実際には、奨学金を最大限活用することで、進学に必要な費用が賄えることもあるのですが、小さい頃から子供に「うちはお金がないから高校卒業したら働いてね」と言っていた場合、子供は勉強する必要性を見出せなくなります。
結果として、後から大学に進学できることがわかっても、学力が足りず手遅れということもあります。
学歴が低いと困ることはあるの?
学歴が低くて困ることはあります。その代表例が就職できる仕事の幅が限られることです。
多くの企業で、将来の幹部候補である総合職の採用では、大卒以上に限るという条件がつけられています。
当然、幹部候補で責任も大きい総合職は給与も高くなりやすく、高卒でも就ける仕事とは収入に大きな差が生まれます。
学歴による収入の差
それでは、実際にどのくらいの差があるのか、データを見ていきましょう。
厚生労働省『令和2年賃金構造基本統計調査』
参照元
高校卒(男女計)年収推移
- ~19歳 242.5万円
- 20~24歳 311.2万円
- 25~29歳 351.4万円
- 30~34歳 388.0万円
- 35~39歳 424.4万円
- 40~49歳 459.5万円
- 45~49歳 487.1万円
- 50~54歳 488.9万円
- 55~59歳 494.1万円
- 60~64歳 367.1万円
- 65~69歳 312.6万円
- 70歳~ 292.9万円
大学卒(男女計)年収推移
- 20~24歳 328.5万円
- 25~29歳 422.4万円
- 30~34歳 495.4万円
- 35~39歳 572.2万円
- 40~49歳 640.9万円
- 45~49歳 713.6万円
- 50~54歳 823.8万円
- 55~59歳 799.8万円
- 60~64歳 557.6万円
- 65~69歳 487.9万円
- 70歳~ 479.8万円
大学院(男女計)年収推移
- 20~24歳 314.6万円
- 25~29歳 474.6万円
- 30~34歳 586.3万円
- 35~39歳 733.7万円
- 40~49歳 837.9万円
- 45~49歳 925.1万円
- 50~54歳 1047.2万円
- 55~59歳 1134.8万円
- 60~64歳 964.0万円
- 65~69歳 903.7万円
- 70歳~ 1025.5万円
このように、高卒と大卒、大学院卒では収入に大きな差があります。お金を稼ぐという点では、より高い学歴を目指すことは重要だといえるでしょう。
出身大学による収入の差
しかし大卒でも、東京大学卒とボーダーフリーのいわゆるFランク大学卒では大きな差があります。それでは、大学ごとにどのくらいの収入の差があるのかを見てみましょう。
出身大学別年収ランキング2022(OpenWork 働きがい研究所作成)
参照元
上位30大学を見てみましたが、ここに名前があるような大学であれば、先ほどの大学卒の年収平均を大きく上回っています。
しかし、裏を返せば、この数字から平均を下げている大学が存在するということです。
そういった平均を下げるのは、基本的に偏差値の高くない大学や地方の大学です。
その理由は主に2つあります。
1つは大都市部のほうが地方より給与の水準が高く、地方での就職が少ない方が収入は高くなりやすい点です。
もう1つは、学歴フィルターの存在です。給与が高くて多くの就職志望者が集まる人気企業では、採用活動の効率化のために学歴フィルターを採用しているところが多く、難関大学出身者が高収入の席を埋めてしまうのです。
そのため、低所得だからといって子供を低学歴で困らせたくないと思うのなら、ただ大学に進学させるだけではなく、できるだけレベルの高い大学に行かせることが必要になってくるのです。
低所得でも学歴を高くするにはどうすればいいの?
低所得は学歴に影響することと、学歴が低いと高所得が得づらくなってしまうことをここまで確認してきました。
しかし、低所得である以上ない袖は振れないため、高学歴を目指して子供に勉強させようと思っても、塾などにお金をいっぱい使うことは難しいでしょう。
ここでは、できるだけお金をかけずに、高学歴になるのに必要なことを解説していきます。
早いうちから家庭学習の習慣をつけさせる
高学歴になるには、やはり勉強ができる必要があります。勉強というのは積み重ねるものなので、一度遅れを取ってしまうと追いつくのにかなりの労力を使います。
また、どこからわからないのかは自分ではなかなか見つけられないので、塾などに通わずに遅れを取り戻すのは困難です。
ですから、できるだけ早いうちから家庭学習の習慣をつけ、つまずかないことが大切です。
家庭学習は、最初のうちは学校の教科書とワークをしっかり完璧になるまでこなすだけでも十分です。問題集などは、ワークなどが完璧にこなせるようになってから買い足すことを検討しましょう。
奨学金などの制度をよく調べ、進学の道を閉ざさない
いくら家庭学習をさせようとしても、低所得だから大学には行けないと子供が考えてしまっては、勉強に対するモチベーションを失います。
必要なことは、子供に好きな進路を選べる、と思わせることです。
そして、子供にそう思わせるには親自身が進学させる方法について熟知しておく必要があります。
給付型奨学金は受けられるのか、貸与型ならば学費から考えてどのくらい借りればいいのか、しっかり調べておきましょう。
学校を最大限有効活用する
塾などに頼れないのなら、最も身近な勉強の専門家は学校の先生です。
学校の先生は忙しいですが、真剣に勉強や進路のことで悩んで相談をすれば、ほとんどの先生は力になってくれます。
勉強に対して真剣だと思われれば、英作文や国語の記述の添削、数学のわからない問題の解説なども、時間をとってやってくれるでしょう。
まとめ
今回は低所得は学歴に影響するのか、そして学歴が低いとどんな影響があるのかについて解説していきましたが、いかがだったでしょうか。
低所得だと子供の選択肢が減ってしまうのは事実です。
だからといって、もうどうしようもないと諦める必要はありません。
低所得でも、親が子供にちゃんと将来の希望を持たせてあげて、子供も努力をしていけば高学歴になることだって十分に可能です。
親の学歴が低い→所得が低い→子供が金銭的理由で進学できない→子供の学歴が低い→……、というような負のループを生まないためにも、しっかりと情報収集をして、子供のために何ができるか考えてみましょう。