理系は女子が少ない、という話を聞いたことがある人は多いかと思います。
女子率が低いということでしばしば東京大学で2割の壁のことがニュースになりますが、文学部に進むことの多い文科3類は40.6%と女子が多く、理学部や工学部に進むことの多い理科1類は8.3%と女子がかなり少ないです。
このように理系、その中でも理工系は特に女子が少ないのですが、それには何か理由があるのでしょうか。
ただ女子が理系に興味がないのか、生まれ持った要因によって理系が苦手なのか、それとも環境的な要因で理系が苦手になり差がついてしまうのか。
今回はそんな理系に女子が少ない理由と、実際の専攻別男女比についてマナビバが紹介します!
理系に女子が少ない理由
理系に女子が少ない理由は、理数系は男子の方が得意であることと、理系の志望者が少ないからです。
しかし、最新の知見では、男女に理数系で生得的な能力差はなく、後天的な理由で差がついているのだといわれています。
また、志望者が少ないのも、理系で活躍す女性の姿が見えず、志望する動機がないことなども挙げられます。
それでは、理系に女子が少ない理由について、詳しく見ていきましょう。
男子の方が理数系の科目の点数が良いから
経済協力開発機構(OECD)によるPISA2018では、日本の女子の数学の学力テストの平均点は男子よりも10点低く、統計的な有意差があります。
それでは、全体的に男子の方が点数がいいかというとそんなことはなく、読解力では、女子が男子よりも20 点高いくらいでした。
つまり、試験の結果としては、理系にとって重要な理数系は男子が得意で、女子は文系の方が得意と見ることができます。
分野の男性的カルチャー
試験の結果だけ見ると、男女で得意不得意の傾向がはっきり出ているので、脳など生まれ持ったものの違いによる性差だと思う人もいるかもしれません。
しかし、カーネギーメロン大学のジェシカ・カントロンらは、科学・技術・工学・数学の教育分野の総称であるSTEM教育において、子供の脳をMRIで調べ、男女の差はないと示しました。(参照元)
つまり、男女で有意な学力差が生まれるのならば、それは後天的な要素によるものだということです。
この後天的な要素は様々ありますが、その1つが分野の男性的カルチャーです。
といっても、これではなんのことかよくわからないので、3つに分類してみます。
- 分野についてのステレオタイプ
- 女性の能力に否定的なステレオタイプ
- 女性のロールモデルの欠如
分野についてのステレオタイプとは、数学は男性のもの、男子は数学が得意というようなイメージのことで、こういった数学ステレオタイプは、女性に「女子は数学が苦手」という否定的なステレオタイプを広めることになります。
こういったステレオタイプは幼少期から無意識に刷り込まれていき、これが理数系への無意識のバイアスにもなっていくのです。
「女子は数学が苦手」というステレオタイプは、数学が得意だと思っている人にも影響し、「自分は数学が苦手というステレオタイプに当てはまるような人間ではない」という、男性にはないプレッシャーを与え、これが成績の差をもたらすのです。
また、女性のロールモデルの欠如とは、わかりやすい女性が理系分野に行って活躍している像が見えるかということです。
日本は女性政治家が少ないという問題にも似ていますが、活躍している人間が少ないから目標とする人が増えず、人が増えないからいつまでも軽視され、結局ロールモデルとなるような人が出てこない。そして、女子が理系を目標としないから、理系の勉強を軽視して差がついていくのです。
幼少時の経験
後天的に理数系の学力差を生む要素の一つに、幼少時の経験があります。
男子はプラモデルのように何かを作ったり組み立てたりする遊びや、博物館などで科学に触れ合う機会が多く、女子はおままごとやお人形遊びなどが多く、動物園や水族館には連れて行ってもものづくりなどにはあまり触れる機会がないことが多くはないでしょうか。
このように男子は小さい頃からものづくりや理数系に親しみ、女子は親しみを持っていないとなると、理数系を選ぶ理由がなくなってしまいますよね。
自己効力感の男女差
また、後天的に理数系の学力差を生む要素の一つに、自己効力感の低さがあります。
自己効力感とは、目標を達成できる能力を自分が持っていると認識することです。
これが男子より女子のほうが低く、慎重で、自信を持ちにくいといわれています。
「女子は数学が苦手」というステレオタイプが蔓延る中で、何か理数系でつまずくことがあると、女子は自己効力感が低いので、「やっぱり自分は数学はダメなんだ」という気持ちになってしまうのです。
そうすると、苦手意識があるのでますます理数系苦手意識を持ち、避けるようになってしまうのです。
理系学部の男女比
それでは、実際の男女比がどうなっているのか、見ていきましょう。
下図は大学の学部生の男女比になっていますが、学部名は大学によって違いがあるので、看護は大学だと医学部に組み込まれていることが多いですが、ここでは医学科と区別するため、薬学などと組み合わせるなど専攻別になっているので、実際の学部の男女比とは異なる部分もあります。
内閣男女共同参画局 男女共同参画白書令和元年版 本編 > I > 特集 > 第2図 大学(学部)学生に占める女子学生の割合
引用元
工学
工学の女子率は上記の表より、15.0%ということが読み取れます。
年々増えてはいますが、やはりまだ工学を専攻する女子は圧倒的に少ないのがわかります。
理学
理学の女子率は上記の表より、27.8%ということが読み取れます。
こちらも年々増えてはいますが、それでも圧倒的に男子の方が多いのがわかります。
また、一般社団法人理系女子未来創造プロジェクトによると理学部は生物学科は女子率が37%とやや高めなものの、数学科は9%、物理学科は13%と女子率が極めて低く、数学や物理のような理数系と言われて思い浮かべることが多いものが特に低い傾向にあります。
医学・歯学
医学・歯学は看護や保健に関するものは薬学とまとめられているので、医学部医学科と歯学部の男女比と考えることができるが、女子率は35.2%とこちらも年々上がってはいるものの、まだ男女平等には届かない数字です。
もっとも、法学や経済学などが含まれる文系の社会科学の男女比とほぼ同じなため、工学や理学ほどではないと感じるかもしれません。
文部科学省によると、医学部の男女での合格率の差はあまりありませんが、志望者数が男子の方が1.5倍近く多いこともあり、それが男女比に表れています。
農学
農学の女子率上記の表から45.0%で、まだやや女子の方が少ないですが、かなり1:1に近い数字となっています。
農学は生命に関することを扱ったり、食に関することを扱ったりするため、女子人気の高い学科が多く、この数字になっているのです。
薬学・看護学
薬学・看護は医学科以外のいわゆる医療系といわれる学部が対象で、女子率は69.0%と文系の人文科学も超えていて突出しています。
看護師や薬剤師は女性が働いている姿が見えやすく、ロールモデルが豊富なので、希望する人も多いです。
ですが、理系を選んだ女子が数学や物理に挫折して、生物や化学でいい医療系に流れるという消極的な志望も残念ながら多いです。
男子の場合、看護師がだんだん増えてはいますが、まだ主流ではないので、医療系にいくという考えが浮かばず、苦手でも理数系にしがみつくというどがとも多く、ロールモデルの意味を実感しやすい例だと思います。
まとめ
理系に女子が少ない理由と実際の男女比について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
最新の知見では、構造的には理数系の能力において男女の違いはないとされています。
しかし、様々なステレオタイプ脅威により、女子はその能力を発揮できず、自ら道を閉ざすことも多いです。
また、ロールモデルの不在は理系の道を志望する女子を減らし、結果として理系学部のとくに理工系が男子ばかりになっているのです。
理系を目指すのなら、周囲の声に惑わされず、自分はできると信じてその道を突き進みましょう。
周りに理系を目指す人がいるのなら、否定的な印象を植え付けないようにするようにしましょう。
子供相手でも、無意識のうちにバイアスがかかるような理数系に関するステレオタイプを押し付けないように気をつけましょう。