2022年から、高校では本格的に探究学習がスタートします。総合的な学習の時間が、総合的な探究の時間に代わると同時に、地理探究や古典探究のような科目も登場します。
そもそも「探究学習」とはどのような科目なのか理解していますでしょうか。また、テーマを決めれない人もいるのではないでしょうか。
これを読めば、「探求学習」のやり方や、テーマを決めるときに実際にあった事例を元に、どんな書き方や発表をすればいいか分かります。
今回は、「探究学習」についての一連の流れや、実際の事例から科目毎のテーマを決めるための参考になるものをマナビバが解説します。
探究学習とは?探究学習の3ステップ
探究学習は、自分なりに問いを立て、情報を集めて分析して、まとめ発表する一連の流れを行うことです。探究学習は3つのステップに分けることができるので、どのように進めいていくか見ていきましょう。
出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/main14_a2.htm
自分なりに問いを立てる
生徒が探究していると言えるためには、自分で問いを立てることが必要です。逆に言えば、先生や人から与えられた問いは、探究学習の問いとは言えません。自分なりに課題を見つけて、課題設定をして初めて探究学習の一歩となります。課題設定のときに、
- 気軽に考えてみようと思えるくらいの簡単なテーマかどうか?
- どんな答えも答えになりうるくらいの深さがあるテーマか?
- 追及しようと思えば深掘りできる可能性をもっているテーマであるか?
の3点に気をつけると良いでしょう。
簡単なテーマは、実生活に即した身近なテーマなど、自分が考えやすいテーマなのかを見てみましょう。例えば、環境問題を取り上げるにしても、いきなり「地球温暖化」から入るのではなく、地域のごみ問題などから入った方が取り上げやすく、テーマも決まりやすいでしょう。
答えに深さのあるテーマとは、簡単にいうと答えが複数あるテーマのことです。実社会の課題の多くは、「正解が一つではない」問いです。自分たちが一つの正解だけにたどり着くのではなく、他にも答えとなりそうなものがあるか探すのも探究学習には大事なことです。
深掘りできる可能性をもっているテーマは、比較的簡単に解決策が出てきてしまうテーマだと、探究学習に深まりが出ません。そのため、調べれば調べるほど、様々な案が感じられるようなテーマや、調べた時にためになるテーマを設定することが大事です。
情報を集めて分析する
テーマを決めたら、そのテーマの問題点や事前知識を知るために情報を集めて分析すること、が必要です。
ただ単に問いを立てるのが探究学習ではありません。自分の立てた問いに対して、答えようとする活動が探究学習です。探究学習では、立てた問いに答えるための、情報を集めて分析します。
情報収集の方法として、インターネットや図書館で調べる、実験やアンケート、インタビューをするなど、情報収集には複数の手段があります。実験やインタビューは自分だけでは準備ができない場合が多いです。この場合、学校の先生に「どのような目的」で「どんなものを準備してほしいか」などを話せるようにしておきましょう。
調べた後は、情報を元に分析する必要があります。収集した情報の中には、課題解決に向けて有用なものとそうでないものがあるため、その整理が必要です。
課題によっては、実験で得た数値的なデータを扱うこともあると思います。その場合はデジタル端末を活用した分析なども有効です。表計算ソフトなどを有効活用することで、効率的にデータの整理・分析ができます。必要に応じて先生に使うようにお願いをしておきましょう。
まとめて発表する
探究の最後に行うべきなのは、まとめて発表すること、です。
もしアウトプットがなければ、せっかくのインプットも消化不良で終わる可能性があります。お互いの学びが実りあるものにしたり、学びに区切りをつけるため、まとめて発表する機会が大切です。
発表する方法として、ポスターやプレゼンテーション、新聞形式にしてまとめる方法があります。
ポスター発表はポスター形式にまとめ、ポスターセッションとして発表する方法です。ポスターセッションには、発表者と聞き手がコミュニケーションを取りあうことができるメリットがあります。
プレゼンテーションはリサーチした内容や実験結果を報告する際に、パワーポイント等を使って発表する方法です。文字だけでなく写真や図表、動画等を使って表現できるため、聞き手に効果的な発表が可能です。
新聞は得た情報を再度構成し、自分の考えを分かりやすく伝えるために、目的や取材対象に応じて新聞形式にまとめる方法です。ビジュアルやレイアウトを工夫することで自分の主張したことが伝わりやすくなります。
探究学習のメリット、デメリット
探究学習をやるメリットやデメリットがどのようなものがあるでしょうか。見てみましょう。
(メリット)課題解決に必要な情報収集力が得られる
現代では多様化する情報を取捨選択する重要性があります。
ありとあらゆる情報は、いまやSNSやインターネットを使えば自由に収集できる時代です。であっても簡単に欲しい情報を得られます。
しかしその情報の多様化ゆえに、主観による間違っている情報や不必要な情報もあふれています。
情報収集は探究学習において必須のプロセスです。インターネットや図書館利用を通じて課題解決のために必要な情報を手に入れる方法を学びます。探究学習により、情報収集に必要な力や情報を選ぶ力を高めることができるのです。
(メリット)話し合いによってコミュニケーション力が身につく
探究学習は個人ではなくグループで行うことや、大人や学校外の人を巻き込むことが多いのが特徴です。グループワークのときにコミュニケーションを取ったりして強調性を磨いたり、発表時に質問をされ応答するといった対応力も身につきます。こういった、自分の意見を伝えることや他社の意見を尊重するといったコミュニケーションを自然と行います。発表でも、
(デメリット)勉強の時間が短くなる
探究学習では課題を見つけることが大変だったり調査をすることに時間がかかったりします。それらは授業時間内ですることは難しい場合もあり、実験などで自分で時間を作らなければならなかったり、家でする作業の時間が必要になってくることがあります。ただでさえ部活や塾などで時間がないため、より時間を削ることで学校の勉強時間や受験勉強時間が短くなるというデメリットがあります。
(デメリット)進路に直結しない場合もある
探究学習は必ずしも進路に直結しないというデメリットがあります。なぜなら入試では直接関係のない科目だからです。AO入試や推薦入試で探究科目を受講している評価をするところも最近は増えていますが、一般入試の場合は探究学習での成果は反映されません。その一分野での知識は深まりますが、入試にあまり関係のない分野の探究科目を行うと入試に活かされない場合があります。
探究学習のテーマや事例
探究学習のテーマを決めるときの参考として、科目毎の事例を見てみましょう。これを見れば調査や発表の仕方の参考になります。
地域課題
自分が住んでいる地域の課題は、自分たちにとって最も身近なものであり、興味を持ちやすいものです。具体的には、地域のごみ問題や防犯の問題、子どもや老人の居場所づくりなどが、テーマ例として上げられます。課題を解決していく上で、地域の人にインタビューをしたり、同じ地域の他校と連携して取り組んだりするケースもあります。
地域で暮らす人との対話から、生き方について考える
学習のねらい
・地域のアドバイザー(北海道大学や自治体など)や卒業生らとの対話から、生徒一人一人が自分のよさや可能性を再認識する。
・あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら社会の変化を捉える。
課題・実施の流れなど
地域機関や卒業生らと話しながら、高校生活の目標やよりよく生きることについて探究する。
1年次
・宿泊研修:高校生活の目的、目標を設定する。
・教科「情報」:総合学習と教科学習の2つから、情報社会について探究する。夏休みには、各領域の識者が書いた文章を要約する課題に取り組む。
・9月からの半年: 「人がよりよく生きるとはどういうことか」というテーマを個人で探究する。
2年次
・「自分で問いを立てる生徒」「教員のゼミに参加する生徒」「外部アドバイザーが設定する講座に参加する生徒」の3パターンに分かれて探究を行う。
・2月:全校生徒のポスターセッション「学術祭」を開催する。教育関係者や保護者なども来校し、生徒が多様な人々と対話することで多様な考え方を取得する。
結果
・社会的経験と専門知識が豊富な外部アドバイザーや学生メンターらとの対話は、生徒の探究心、創造力、想像力に大きな刺激を与えた。
・生徒は、自分が認識できる世界の外に別の生き方や考え方があることを知り、将来の可能性や選択肢を広げている。
ポイント
地域機関と密に連携しながら、生徒と多様な人々との対話を実現した事例です。外部のアドバイザーは、北海道大学や自治体、企業やNPO法人が務めています。また、登録制で卒業生がメンターやファシリテーターとして授業に参加しており、様々な人物が探究活動に貢献しています。
地域探究というと「地域課題の解決」がテーマとして浮かびやすいですが、地域の多様な人々との対話を通して生徒の価値観を広げることも地域探究の一つです。
キャリア・進路探究
キャリアに繋がる体験などをして、他の科目と理解を深める探究科目です。めったにできない体験をして、課題に対する対応力などを磨いたりします。
ファームステイを通して自己の在り方・生き方を考える
学習のねらい
北海道でのファームステイを軸に、以下の能力や態度の育成を目指した。
・意欲的に学び、創造するための資質や能力を育成する。具体的には、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」を養う。
・主体的に自己の在り方・生き方を考えることで、心豊かで節度ある人間を育て、逞しく生きる態度を育てる。
課題・実施の流れなど
ファームステイを含む北海道での研修旅行を中核に置き、教科横断型で探究学習を行う。以下のように、課題設定→ファームステイ→新聞のまとめ・発表の流れで実施する。
・研修先の北海道について知るとともに、地元である広島についても比較として整理を行う。北海道と広島の共通点や相違点を把握し、気候・地理的条件・経済等の関心を持ったテーマに沿って課題を設定する。
・設定した課題に関する情報を収集する。各教科では、北海道に関する学習を行う「北海道ウィーク」を設けることで生徒の関心を高め、各教科の学習とグループ調査との関連付けを図る。
・北海道でのファームステイを実施し、農業体験を行う。
・探究活動の成果を新聞としてまとめる。クラス内で新聞を互いに評価し合った後に、文化発表会及び実践発表会において、ポスターセッション形態で発表を2段階で行う。
結果
調べた内容に関する発表や相互評価を繰り返すことで、より正確な資料検索や効果的な発表方法を自ら工夫できるようになる。その結果、自己表現活動への意欲の高まりが期待できる。
ポイント
本事例は研修旅行という学校行事を活用しているため、修学旅行や校外学習等の行事も探究活動の機会として活かすことができるとわかります。
ファームステイでは、「働く」とはどのようなことかを生徒が体験的に学べるため、勤労の実態の育成が期待されます。県を飛び出して働く体験をすることは、他地域の特色を学んで地元と仕事の特色を比較し、地元の産業や働き方を見つめ直すきっかけにもなります。
また、他地域に赴かなくとも、地元の農家や事業所と連携して職業体験の場を設けることもできるでしょう。
SDGs
SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2030年までに目指すべき17の目標として国際連合が示したものです。多くの学校が取り入れていますが、自分たちが自分事として取り組むには、17の目標は多すぎる側面もあります。そのため、17の目標から一つを選び、自らの実生活に当てはめた上で、テーマを設定することが大切です。
瀬戸内海の海底ごみ問題解決のための実践と発信
学習のねらい
自分たちの手で地元の海岸を綺麗にする活動を通して生徒の環境への興味を喚起し、主体性を育てる。
課題・実施の流れなど
瀬戸内海の海底ごみ問題解決に向け、以下の活動を行う。
・地元漁師と協働して海底ごみの回収や分析を行う。回収時にはメディアや近隣府県の中高生を招くことで、情報発信や他校の学びの場を提供する。
・海底ごみの発生を抑制するための啓発活動を行う。具体的には、ビデオ教材の開発や学会での情報発信、公民館への出前授業などを行なっている。
結果
地域と連携した活動の実施により、地域住民の海底ごみ問題への意識が高まっていった。
ポイント
地元の人々や組織と提携しながら、地域貢献を行った事例です。
実践を行うと同時に自分たちの活動を外部に発信しているため、取り組みを学校や地域でのみならず、SDGsを普及させることに尽力しています。
世界史探究
世界史に関わるキーワードで「探求科目」を行います。一つのテーマで様々な国と制度を比較したり、時代を遡って比較することで、探求科目になります。
貨幣について考える
貨幣をテーマとした探究学習事例です。イギリスの金本位制、アメリカの管理貨幣制、地域通貨など様々な貨幣制度をシミュレーションによって体験することを通じて「貨幣とは何か」を探究します。
学習のねらい
・貨幣を事実や知識としてだけではなく、陳書として扱い、生徒自身が貨幣を語る自分を認識しながら、貨幣についてメタ的に考察したり、教員やクラスメイトと対話したりする資質を探る。
・お金には、多様な目的や価値観が結びつくことを語ることができる。
・自分がお金に結びつけていた歴史的価値観は、一つの価値観にすぎないことを自覚し語ることができる。
・お金にどのような価値観を結びつけるのかを判断し、自分自身のお金の使い方について、語ることができる。
事前アンケート
学習前アンケートで生徒自身が貨幣をどう捉えているかを記述する。
自己評価
この学習の評価基準を示し、現時点での貨幣に対する認識を生徒が自己評価していく。
金本位制を体験
イギリスの金本位制度におけるポンド金貨の使用についてシミュレーションを行い、使用の目的や価値観を分析していく。
管理通貨制度を体験
アメリカの管理通貨制度におけるドル紙幣の使用についても同様にシミュレーションを行う。
地域通貨を体験
これまでの貨幣の働きと異なる地域通貨の使用を、シミュレーションで体験する。
貨幣について探究
この体験から「自分や他人が必要なことのために働きたい」という価値観の可能性や、自分自身の価値を貨幣以外に置くことができるかどうかを探究する。
評価
最後に生徒の自己評価、生徒同士で相互評価を行っていく。
古典探究
古典分野の探究的な方法で「教科に関する知識や考え方」を身に付けていきます。探究を通じて、生徒が教科の知識や考え方を身に付けられるようにデザインしておく必要があります。
清少納言への異なる評価を読んでその背景を探究
学習のねらい
・多様な意見の質的な差について生徒たちが意欲的になる
・それらを関連づけて説明できる力をつける
・そうすることによって、古典への理解を深める
課題・実施の流れなど
「十訓抄」と「紫式部日記」の清少納言評を読み比べて、その評価に差異が生じた要因について考えさせる。個別探究のあと、グループによる探究を行い、答えが一つに定まりにくい課題に対して、協働で解決を目指す授業を試みた。
1~4時間目
「十訓抄」と「紫式部日記」の読解
5時間目
「十訓抄」と「紫式部日記」で清少納言への評価が異なる要因について、1回目の個別探究を行い、個人で考えをまとめた。その後グループに分かれて話し合い、グループでの意見をまとめる。
6時間目(公開授業)
各グループの発表を行った。発表内容を記録し、関連付けや教員からの補足等を行いながら、ポイント毎に整理した。それをふまえて、最初の問い(評価の差異について)に対して2回目の個別探究の時間を取った。
結果
1回目と2回目の個別探究の回答を比較すると、1回目では複数の意見をただ羅列するにとどまるものが多かったのに対し、2回目では複数の意見を関連づけたものが増加した。
関連づけが行えた生徒は一部であったという点で課題はあるが、生徒たちに探究的思考の動機が与えられたといえるだろう。
清少納言と紫式部の「(1)社会的な対立」と、「(2)文学性の対立」を関連付けた回答例
(1)紫式部日記で清少納言が悪く言われているのは、やはり二人が(公家社会において)ライバルのような関係であったことが原因なのではないかと思う。嫌いだから、(2)紫式部は清少納言の感性が受け入れられないのではないかと感じた。
ポイント
グループによるディスカッションや、まとめ・発表も行われ、対話的で深い学びにつながったのではないでしょうか。
単純な古典の読解にとどまらず、有名なテキストにも様々な位置づけがあることや、その背景にある時代状況などに気づくことで、古典への理解を深められた事例です。
物理探究
物理分野に関する「探求科目」です。他の探求科目と違って、インターネットで調べるだけでなく、実験を元に科目の理解を深める役割を持っています。
高等学校物理の電気単元における回路カードを使った実験
高等学校物理の電気単元における回路カードを使った実験事例です。生徒が試行錯誤しながら回路を設計・製作する実験プロセスによって探究力を高めた様子が見られ、探究学習に応用できる事例です。
活動
視覚的理解ができるように、回路図と見た目が同様な回路カードを生徒自身が作成。
作成後「一人で行う実験」と「ペアで行う実験」を実施した。それぞれにテーマ(コンデンサやダイオード、直列・並列繋ぎなど)を設け、高校物理での電気の単元理解を目指す。
授業後のフォロー
授業後に対象生徒27人に、実験教材の自作に関すること、使用に関すること、そして理解に関することの3つの観点からアンケートを取りました。
アンケートについて、「作り方が簡単だった」という肯定的な意見を持つ生徒が100%、「使い方が簡単だった」という肯定的な意見の生徒が96%、「内容理解が深まった」と答えた生徒は100%という結果が得られ、本教材と実験は教科書の内容理解に有効であることが明らかとなりました。
さらに、生徒達が試行錯誤しながら回路を設計・製作する実験過程で探究力を高めた様子が見られ、個人の活動のみならず、グループやペアでの探究的な活動にも適した教材であることがわかりました。
教科学習を探究的なアプローチで行うことで、生徒の理解にもつながった好事例といえるでしょう。
まとめ
今回は、「探究学習」についての一連の流れや、実際の事例から科目毎のテーマを決めるための参考を見てきました。
「探求科目」のやり方は3ステップあること。また、テーマ設定にもコツがあること。「探求科目」の種類によって調査の仕方が異なることが分かりましたでしょうか。
今回の事例を参考にして、テーマを設定できるようになり、適切な調査やより良い発表ができるように工夫を考えてみましょう!