理系の皆さんは「理数探究」という科目をとるかもしれません。この「理数探究」という科目でどんな科目か?どんな自然事象などを調べたら良いか?など疑問がたくさんあると思います。
これを読めば、「理数探究」がどのような授業か、またどのようなテーマや事例を設定すればいいか分かります。
今回は、「理数探究」とは何か、またテーマ例や事例をマナビバが解説していきます。
理数探究とは
まずは、理数探究はどんな科目か、また、授業の流れや目標について見ていきます。
理科や数学の探究科目
理数探究とは「理科」や「数学」にまつわる課題の設定、解決をするために学習を進める科目です。
高校は2022年度の入学者から開始される科目で、理数探究は「総合的な探究の時間」の履修の一部または全てに置き換えできるのが特徴です。
具体的には「ダンゴムシの交替制転向反応について」「金平糖の角の形成の数理モデルを作成」といった課題を生徒自身が自由に設定して、文献や実験を用いて調査・分析を行っていきます。
理数探究の流れ
まず行うのが、理科や数学に基づいた課題の設定です。
高等学校学習指導要領では、自然事象や社会事象に関すること、数学的事象に関することなどを扱う内容として掲げています。
課題設定は、自身が関心・興味を持った疑問を設定しなくてはいけません。
次に仮説・分析・考察・推論を行います。
テーマを決めたら、自分たちで考えた課題をもとに仮説を立てて、探究学習を進めていきます。
理数探究では数学的・科学的な方法を用いて、仮説を検証するために観察や実験、調査を行っていくのが特徴です。
実際に仮説を立てたら、分析・考察・推論を行います。
この段階で、設定した仮説が本当に正しいのかどうかを検証しなければいけません。
もし立てた仮説が間違いだった場合は、棄却して新しく課題を立てる必要があります。
ここでは予測した結果にならなかったからといって、探究を失敗と決めつける、結果にそぐわなかったデータを除外するといった行動を取らせないようにしましょう。
そして仮説を実証できるまで、何度も分析・考察・推論を繰り返し行うようにしていきましょう。
最後は理数探究によって得られた結果を他者に発表します。
ただ結果だけを伝えるのではなく、どのように課題設定を行ったのか、課題解決までの過程についても分かりやすくスライドやポスターなどを用いて、説明させるのがポイントです。この際に失敗した過程を書くことも大切です。
また報告書づくりも学習効果を高めるために必要です。
参考にした文献も記載するようにして、次につながる新たな課題について考えていけばもっと良いでしょう。
詳しい流れや探究科目についてはこちらをごらんください。
理数探究の目標
理数探究では、学ぶ事象について探究をするための必要な知識や技能を身につけるのが目標です。
探究では様々な課題に対して、柔軟な思考や発想で立ち向かっていく能力を育てます。社会の課題を解決するには新しい技術が必要で、理数探究によって技術を生み出す研究者の育成につながることも期待されています。
また、調べた内容を相手に分かりやすく発表する能力も必要です。このように、他者へのアウトプットをし、フィードバックを受け、より良い結果を得たり新たな考察をしていくことも期待されている力の一つです。
理数探究のテーマ・事例
では、テーマや事例を数学や理科の様々な分野で見ていきましょう。
数学の探究科目の事例
オランダで行われている国際数学コンテストの問題
学習のねらい
生徒がグローバルな社会課題に関心を持ち、協働しながら、多角的な視点で事象を捉えて問題を見出して解決するとともに、解決の過程や結果を実際の状況に照らして吟味し、一定の解決策を提案できる力を育成すること。
課題・実施の流れなど
課題は「ラッシュアワーの時間帯の総混雑量を求める」など、現実社会に起こりうる現象を扱うものです。
学習は、オランダのRME(Realistic Mathematics Education。ユトレヒト大学フロイデンタール研究所による)というアプローチに着目して設計され、大きく以下の3つの活動が実施されました。
①高校生向けのチームコンテストMath A-limpiad(エーリンピアド。国際数学コンテスト)の課題による総合的な探究活動
②Mascilプロジェクト(EUの数理教育プロジェクト)で開発された教科横断的規格化を活かした既設教科の指導内容と授業の改善
③Cito(オランダ教育測定研究所)が作成した全国共通試験問題を活用した課外での自主的な探究活動の実施
①、②では、実際に使われた予想問題を使ってグループワークを行ないました。
結果
授業実践後のアンケートによると、
・生徒は概ね興味を持って取り組むことができた
・これまで取り組んできた数学の問題とずいぶん異なっているため、多くの生徒にとって難易度が高った。
という結果が得られました。
ポイント
現実社会の問題をテーマとすることで、生徒は学習を自分ごとと捉え、意欲的に取り組みやすくなります。
それだけではなく、日常の現象を数学的にとらえ定式化したり、数学的な視点から事象を理解したりする力を身につけていくのではないでしょうか。
物理・化学の探究科目の事例
ロケット推進薬の燃料のしくみを定量的に探究
「ロケット花火」をテーマにした探究学習事例です。物理、化学の横断したテーマ、また危険な物質を扱うものだけに「安全な実験環境」を実現する方法を学んだ事例です。
学習のねらい
生徒の好奇心を大いに刺激しますが、爆発物なので扱い方によっては危険物となり得ます。事故防止の意識を深くもってもらいながら、ロケット推進薬の燃料のしくみを探究することがねらいです。教科としては高校物理と高校化学との関連が重視されました。
課題・実施の流れなど
静岡県の竜勢(ロケット花火のようなもの。静岡県指定無形民俗文化財)保存会への調査と、固体燃料ロケットの仕組みを比較することで、推進力となる燃料の仕組みを明らかにすることに取り組みました。
安全上、ロケットを飛ばさずに推進力を測定する方法として、梵鐘用の撞木をモデルにした装置を用いて測定を行ったり、過塩素酸塩の熱分解反応を学ぶためにビーカーやフラスコを用いた気体捕集実験を敢行しました。
結果
過塩素酸塩の分解反応の化学式を導くことができ、物理にとどまらず、化学にも繋げられる学習となりました。
ポイント
本研究は、東海地区高等学校化学部研究発表会と日本学生科学賞中央審査で発表されました。その際、生徒は他校の学生から質問を受けたり活発に意見交換を行う中で、専門家や研究者として必要な能力を実感し、探究学習における「まとめ・表現」の段階で第三者からフィードバックをもらう重要性に気づく機会になりました。
生物の探究科目の事例
酸性〜塩基性でムラサキキャベツ液の色を鮮やかに変化させる色素の成分を調べる
探究の目的
ムラサキキャベツ液は、BTB 溶液などの酸塩基指示薬と同様に pH によって色が変化するが、色の変化の仕方は一般の指示薬よりも複雑に変わる(pH 1.0【赤】、pH 3.0【桃色】、pH 5.0【赤紫】、pH 7.0【紫】、pH 9.0【青】、pH 11.0【緑】、pH 13.0【黄】)。そのため,「ムラサキキャベツの色素は複数の成分が混ざり合ったものではないか」と考え、その成分調査を探究の目的とした。
用いた方法
①pH 1.0、pH 3.0、pH 5.0、pH 7.0、pH 9.0、pH 11.0、pH 13.0 の緩衝溶液を調製した。
②それぞれの溶液にムラサキキャベツ液を加えて、その溶液の吸収スペクトルを紫外可
視分光光度計で測定した。
③波長と吸光度のグラフを作成し、その関係性を分析した。
得られた結果
pH 1.0、pH 3.0、pH 5.0 においては、波長 430nm、570nm 付近で等吸収点(吸収スペクトルが1点で交わる場所)が見られた。pH 9.0、pH 11.0 の吸収スペクトルにおいては、酸性側の等吸収点と重ならなかった。(pH 13.0 については実験中に退色があったため,グラフ化はしなかった。)
考察・推論
酸性側では、等吸収点が見られたことから、pH により構造が変化する同一物質(文献によりアントシアニン)の存在を推測した。一方、塩基性側では、酸性側の等吸収点と重ならなかったことから、アントシアニンではない物質の存在を推測した。
ポイント
この推論の後にアントシアニン以外の物質の存在を確認するため、薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いる計画を立て実験を行いました。すると、2種類の成分が存在するのではないかという推測が得られました。色素成分のより精密な分離と同定のため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用しました。HPLC による分離では、紫色の成分2種類と無色の成分1種類が含まれていることが分かったそうです。さらに、無色の成分を塩基性にすると黄色に変色したという結果が出ています。
まとめ
今回は、「理数探究」とは何か、またテーマ例や事例を見てきました。
他の探究科目とは違い、「理数探究」は仮説を立て実験を繰り返し、得たデータをまとめる力が必要です。様々な課題に対して、柔軟な思考や発想で立ち向かっていき、他者に発表をします。この一連の流れを大事にしましょう。
テーマを決めるときに悩む人は多いと思いますが、身近な現象や興味のある現象を取り上げることが大切です。
発表方式が多くて決められない人もいるかもしれませんが、今回を参考に良い発表ができるように頑張りましょう!