「都会と地方とでは大学への進学率に差があるのでしょうか?」
「田舎の人はあまり大学に行かないってほんとなの⁉」
今回はそのような、大きな都市と地方(いわゆる田舎と呼ばれる地域)とでどれくらい大学への進学率が違うのかを調査し、その原因や問題点をマナビバが探っていきます。
各都道府県の大学進学率は?
< 大学進学率ランキング>
順位 | 都道府県 | 大学進学率 |
1位 | 京都 | 67.8% |
2位 | 東京 | 66.6% |
3位 | 兵庫 | 62.5% |
4位 | 大阪 | 61.8% |
5位 | 広島 | 61.3% |
6位 | 神奈川 | 60.9% |
7位 | 奈良 | 59.9% |
8位 | 愛知 | 59.0% |
9位 | 埼玉 | 58.5% |
10位 | 山梨 | 57.0% |
11位 | 福井 | 56.9% |
12位 | 滋賀 | 56.5% |
13位 | 石川 | 56.4% |
14位 | 岐阜 | 56.1% |
15位 | 千葉 | 56.0% |
16位 | 富山 | 55.3% |
17位 | 香川 | 55.1% |
18位 | 福岡 | 53.9% |
19位 | 徳島 | 53.8% |
20位 | 静岡 | 53.4% |
21位 | 愛媛 | 53.2% |
22位 | 群馬 | 53.0% |
23位 | 高知 | 52.5% |
24位 | 栃木 | 51.9% |
25位 | 岡山 | 51.8% |
26位 | 和歌山 | 51.5% |
27位 | 茨城 | 51.4% |
28位 | 三重 | 51.1% |
29位 | 宮城 | 50.0% |
30位 | 長野 | 49.1% |
31位 | 大分 | 48.8% |
32位 | 新潟 | 48.4% |
33位 | 北海道 | 47.7% |
34位 | 青森 | 46.6% |
35位 | 熊本 | 46.4% |
36位 | 長崎 | 46.1% |
36位 | 山形 | 46.1% |
38位 | 福島 | 45.8% |
39位 | 鳥取 | 45.4% |
40位 | 岩手 | 45.2% |
41位 | 島根 | 45.1% |
42位 | 秋田 | 45.0% |
43位 | 宮崎 | 44.9% |
44位 | 山口 | 44.3% |
45位 | 佐賀 | 43.6% |
46位 | 鹿児島 | 43.5% |
47位 | 沖縄 | 40.8% |
(資料)文部科学省 令和3年度学校基本調査「高等学校/卒業後の状況調査より」https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1419591_00005.htm
以上のような結果となっています。
大体の傾向として、大きな都市を持つ都道府県や首都圏、関西圏、中京圏で進学率が高く,地方で低い傾向にあります。
男女別では男子の方が高く、全国値で男子が57.8%、女子が51.0%です。これは男子と女子の学力差によるというよりも、女子を自宅外に出すのを心配する親が多い、家の事情で男子優先、というような理由も考えられます。
北海道では男子の進学率が女子より10ポイント以上高いようです。
なぜ地域によって差が出るの?
- 経済力に差がある
- 大学の受け入れ数に差がある
以上の2つの点から話を進めます。
①「経済力に差がある」について
大学進学率の地域差が、すなわち子どもの能力差とは考えにくいです。例えば秋田県は、大学進学率は39.4%と低く、下から4番目です。
しかし秋田県の子供の学力は全国でも例年トップレベルです。これを見れば秋田県の子どもたちが大学受験で不合格になっているとは思えません。
それに対して、首都の東京は自宅から通える大学が多いこともあり、大学進学率の男女差がほとんどありません。言い換えると、大学が都市部に集中していることで大学進学の費用負担能力という経済的な理由や自宅から通学できる安心感につながります。
これに加えて、日本の大学の学費は高額なので、大学生を持つ親世代の収入も大きく影響します。経済力の地域差に偏りがあることも大学進学率の差につながっています。
例えば学生を持つ45~54歳のお父さんたちの所得がどれくらいかというと、東京都は男性の年収の中央値が約700万円であるのに対し,秋田県は約450万円です。
沖縄県に至っては約370万円です。たしかに地方は生活費が安く、収入が少なくても何とかなるかもしれません。しかし、大学進学にかかる費用はは東京とあまり変わりません。
むしろ大学進学のために上京して下宿代を負担するとなれば、少ない所得の中から「学費」と「下宿費」の両方で負担が生じます。都市と地方の経済力の差が大学進学の機会の差に結びついていると考えられます。
②「大学の受け入れ数に差がある」について
大学進学率の地域格差の要因は、親世代の経済力の差だけではありません。都会は大学がたくさんあり、大学の受け入れ人数に余裕があるから入りやすい、という見方もできます。
政府の「就業構造基本調査」(2017年)では、大学進学年齢の親をおよそ45~54歳くらいと設定し、この年齢層で大学・大学院を出ている人の割合を見ると、東京都では40.5%に対し、先述の秋田県では14.3%しかいません。
この「親世代が大卒かどうか」も各県の大学進学率と関係が深いようです。伝統的に家庭の経済力だけでなく、元から大学の数が少なく、大学ごとの学生数も少ない状況があります。これは、地方には大学が存在しにくい、とも言えます。
端的に、大学の学生数が少ないと大学に収められる授業料なども少ない金額になってしまいます。大学も、設立するからには運営できないと破綻してしまいます。必然的に学生が集まりやすい都会に大学を持ち、収益の見込みが立ちにくい地方への設立は避ける、という構図が進んでいきます。これを「大学収容率の差」と呼んでいます。
この傾向は拡大し、大都市圏での進学率の上昇が加速しています。21世紀以降の約20年間で、東京を含む首都圏と京阪神、愛知県の大学進学率が上位の10位に入り、特に東西の2大都市圏の高い進学率が目立っています。
下位地域は徐々に固定化され、都会と地方の二極化が進んでいる状況です。
「田舎の人は大学に行かない」問題点は?
地方には大卒の学歴を求める仕事が少なく、大学進学を無駄な費用と思っている人も多くいます。例えば家業の農業を継がせるのに大学卒業など不要だ、との意見があります。
実際に、田舎で農協や漁業組合などの事務員になる場合、伝統的に高校卒か短大卒しか採用しないというケースは確かにあるようです。
これは特に女性に関して強い傾向があるようです。また、田舎では商業高校が一部の普通科よりもかなり優秀という例もあり、高齢社会の進む地方において、高卒で若い即戦力の働き手が加わるのは大賛成という風土が定着しています。
地域によって広がる大学進学率の差は、能力があるのに進学できないという状況を生んでいます。
「本当は大学に行きたいんだけどね」。
実はこのように思っている地方の高校生は多数いるかもしれません。大学の少ない地域から大都市圏の大学をめざす高校生を持つ親には下宿代、生活費などの負担がのしかかります。このため、親のことを考えて大学進学を断念する人もいます。
つまり、「行かない」というより「行けない」ことが問題なのです。
データ上では、日本全国の高校生のうち半数以上が進学しています。しかし、大学進学率を都道府県別に見てみると、また少し違った状況がわかりました。京都府や東京都は7割に迫る一方、九州や東北、中国地方の山陰などは全国平均の約54%を大幅に下回っています。
さすがにここまで差が出てしまったのは問題です。住んでいる場所で大学へ行ける、行けないという進学の機会に大きな差があると、本人の努力とは別のところで大学への進学ができなくなり、人生そのものも違ってきてしまいます。
自分の興味関心のある分野や適性にあった道を選択できるのが望ましいのは言うまでもありません。その勉強をするための進学や教育の機会を得られない世の中でいいのだろうか、との疑問は残ります。
「田舎の人も大学へ行ける」改善策は?
地方の人でも大学に進学できるようにするには、奨学金などの進学助成制度を拡充することが重要です。仮に地方の大学設置を国や自治体が誘致しても、入学できない人が多数いると地方に大学を呼んでくるだけの目的しか果たせません。
都会から地方に人が流れてくる可能性はありますが、学生が集まらないと数年で破綻してしまいます。このような、都会と地方とではあまりに環境が違うことも問題点をさらに強めています。都会で生まれ育った若い人たちの中には、海外旅行の経験はあるのに日本の地方における現状を体験できていない人が多数います。
自分たちが当たり前に享受している環境がどれほど恵まれたものなのかをなかなか気づけません。地方に生まれ育ったために教育機会を得られず、選択肢を持つことが少ない人たちが存在するということに気づかない人もいます。
そこで、奨学金などの進学助成制度の拡充が求められます。Uターン就職なら返済の金額を大幅に免除し、上京して大学を卒業する際に地元へ就職すれば返済に困らないような仕組みの奨学金制度の採用が必要です。
これを国と自治体が共同で実施することで「田舎の人も大学に行ける」ようになります。また、この制度を都会の子供たちが知れば、自分たちが元から都会で生活できて進学できている環境や機会を、自分の努力だけで獲得したと思ってはいけないと考えるきっかけにもなります。
いま利用できる奨学金は?
すぐに現存の奨学金を活用したい人は、幾つもある奨学金の中で、できれば返済の必要のない給付型の奨学金を利用したいところです。通っている高校や大学、あるいは、住んでいる都道府県や市区町村からもらえる場合がありますが、それら以外に、給付型奨学金をくれる団体もあります。
「公益財団法人」や「一般財団法人」「特定非営利活動法人」など多数の法人が奨学金制度を用意しています。詳しくは各団体のホームページで確認が必要です。
- JEES奨学金
- JASSO奨学金
- JBC・CSR基金
などがよく知られています。一般的には以下の3つの基準で審査があります。
- ①学力
- ②家庭の経済力
- ③対象校
これらの条件も各団体によって基準が異なります。自分の希望を満たしてくれる団体があるかもしれません。給付される金額はまちまちで、年間で3万円くらいのものもあれば20万円以上の給付もあります。
これらの奨学金を複数利用できれば、学費・生活費の大半を補うことも可能になります。
なお、団体から学校に募集通知が届いている場合があります。皆さんが在学している学校の学生支援課などの窓口で、給付型奨学金の募集通知が届いていないかを確認しましょう。
JEES奨学金http://www.jees.or.jp/foundation/g-scholarship.htm
JASSO奨学金https://www.jasso.go.jp/shogakukin/
JBC・CSR基金https://www.jbc-csr-fund.org/
まとめ
今回は「田舎の人は大学に行かないってホント⁉」「都会と地方とでは大学の進学率に差があるのでしょうか?」とのギモンを調べ、説明しました。都会と地方の格差を何らかの手立てで縮めていきながら、田舎に暮らす、都会に暮らすを問わずに誰もが自分の意思で大学まで進学できる世の中が来るといいですね。