今回は、親の収入と子供の学歴の関係について、考えてみます。
小学生、中学生、高校生を育てている親の中には、「親の年収が子どもの学歴に影響するのだろうか?」と思ってしまう方もいるのではないでしょうか。
既に世間一般では、親の年収は子どもの学歴と比例する傾向にある、とのデータが出回っています。
だからといって、全て経済力で決まるかといえば、必ずしもそうではありません。そもそも、いくら高額な家庭教師を家に呼んでも、子ども本人が全く勉強をする気がなければ、親が思い描く学歴を形成するには至りません。
では、親は何をすればいいのでしょうか。以下のデータを参考にして、親として子供に出来ることは何か、考えていきましょう。
相応の教育費は必要!
最初に、東京大学に通う学生の親の経済力は、一般的な家庭の経済力と変わらないのでしょうか。以下のグラフをご覧ください。
図1の「東大生の親の年収分布」のグラフは、東京大学の「学生生活実態調査」で発表され、有名なニューズウィーク誌にも掲載されました。
<経済力が学歴に有利なのは確か>
東京大学が実施する「2020年度(第70回)学生生活実態調査」によると、東大生の親の42.5%が平均世帯年収1050万円以上でした。また、親の年収は子どもの学歴と比例する要因の一つであるとする論文「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」をお茶の水女子大学が発表しています。
これにより、保護者の年収や学歴などといった家庭の社会経済的背景と、子供のテストの平均正答率との相関関係を分析し、だいたい経済力の高い家庭の子供の方が、そうではない家庭の子供よりテストで得点できていることがわかっています。
国税庁では給与所得者の1人あたりの平均年収が461万円という発表をしています。この平均年収461万円と比べると、東大生の親の平均世帯年収1050万円以上は倍以上も高いということになります。
高収入の家庭では、例えば小学生の頃から学習塾に通って勉強するのが当たり前という生活環境をつくることができる、などが挙げられます。
東京大学に受かる人には、国公立や私立の中高一貫校出身も多くいます。そういう学校に入るには中学受験に向けての膨大な学習量が必要です。母親の厳しいチェックや優しいサポートも不可欠であるため、子どもの中学受験合格や教育の充実度を上げるために、母親が職業に就かない例も多くあります。
そうなれば、1対1でみっちり教えてくれる個別指導の学習塾などに毎日通学したり家に家庭教師を呼ぶなどが可能となり、当然に学力は上がります。親の年収が高ければ、教育に使える資金も十分に確保でき、充実した学習環境を用意するのに有利であることは否定できません。
以上により、親の年収が高いことが子どもの学歴に影響する可能性は高いといえます。
また、以下のグラフは、図2「世帯年収と中学3年生の正答率」です。
確かに、親の年収が高いと子どもの学歴も高くなりやすいということがわかります。これを見るにつけ、早い段階で学力を上げるために資金を投じ、将来には難関大学へ進学させたいと考える家庭が多いことがわかります。
ニューズウィーク2018/09/05
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/09/6950.php
国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/22chousa/22chousa.htm
親の年収と子どもの学歴はすべて比例するの?
親の年収が高いと、子どもの学歴が高くなりやすい傾向にあるのは確かです。
<家の収入と子どもの学力は必ずしも比例しない>
ところが、先の図1にもあるように、平均世帯年収450万円未満の家庭からも、例年10%以上は東京大学に入学していることは見逃せません。実際に、2018年は13.2%、2016年は10.9%が平均世帯年収450万円未満の家庭でした。これはつまり、平均より低い世帯年収水準だとしても、本人の努力次第で東京大学に合格できるという証明になります。
このことから、親の年収だけ高いことが子どもの学歴が高くなる理由とは言えません。言い換えると、収入が多ければ多いほど子どもの学力が必ず高くなるというワケでもない、ということです。親の年収が高くても、学力の低い子どももいます。
経済的に不利な環境でも、学力の高い子どもは一定数います。社会的・経済的背景が低い環境で生活していると学力にバラつきが出てきますが、それでも不利な環境を克服して高い学力を達成している子どもが一定数存在することは既に判明しています。
親として、年収が低いだけで子どもの可能性を諦めるべきではありません。子どものために何ができるのか、どうするのがベストなのかを考え、前向きに情報を入手して実践可能なことは実践していきましょう。
例を挙げれば、なにも高額な家庭教師を呼んだりしなくても、自主的に通って疑問点や課題を解決しようと思えば低い学費の塾に行って一所懸命に勉強して難関大学に入る人もいます。単語帳をボロボロになるまで読んで書いて覚えて、塾の先生にアドバイスをもらって有名大学に合格し、一流企業に就職すれば、塾への投資など十分に取り返せます。
問題は、そういう後々に戻せる投資であることをあまり考えずに、塾に行かずに家で勉強しよう、と言いながら実際には勉強せずに学力が下がっていく子どもが多数いる現実を見ていない所が問題なのです。
家庭の蔵書数が多いと子どもの学力が高まる!
ここで、経済力の有無とは別に、子どもの知的な成長を促す基盤づくりとして、親から子供へのはたらきかけが重要である、という視点で見てみましょう。実は、親が子どもへはたらきかける度合いが高いと、学力にもいい影響があることも報告されています。
学力は読み書き・計算などの数値で測れる「認知スキル」とも言えます。これに加え、自尊心や協調性など数値だけでは測れない「非認知スキル」も高めると、社会・経済的背景が低い場合でも学力は高まる可能性があるとの研究もあります。
<自宅の蔵書数を見る>
文部科学省「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」によると、自宅の蔵書数は学力に影響しているというデータを出しています。以下の「図表2−7」がその表です。
この表では、小学6年生も中学3年生も、蔵書数が少ない家庭の子どもよりも、蔵書数の多い家庭の子どもの学力が高いです。
また、子どもの知的発達に影響する家庭環境として、蔵書数の他に、文化的施設に子どもと一緒によく行くかどうかということもあります。家庭での環境要因に目を向ければ、工夫次第では子どもの言語能力の向上を促すことができるのです。
親がよく読書をする、自宅に書物が多数ある、図書館によく行くという家庭に生まれ育てば子供も読書をするのが自然なことだという認識になります。一日中テレビを見たりネット映像ばかりを親が見ていたら、それは子どもにとっても当たり前の生活になります。
親の生活スタイルが環境要因となって、子どもの生活する方向性を規定していくのです。仮に、たとえ親自身の社会・経済的地位や学歴にハンディがあっても、そこを読書するのが当たり前という環境づくりをするのが大切です。
同様に、学校が終わったら通塾して学力を維持したり補ったりするのが普通の毎日の生活だ、という生活習慣にしてしまえば、当の子ども本人にとっては決してツラいものではありません。無理矢理に勉強させられている環境ではなく、自然な文の読み書きの延長に勉強があるという感覚を作っていくことが大事です。
文部科学省
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/10/1406896_1.pdf
<経済力より文化的な環境が大切>
自宅の蔵書数の事例を聞けば、子どもが親に遺伝上は似ているからといって、全てが遺伝によるものではないということが言えます。このように考えれば、蔵書数だけでなく、会話などの言語能力についても、親から子への伝達という側面は重要です。
早期に言語能力が発達すると、その後も言語能力を伸ばせる傾向があります。自分の身を知的な場所に置きたい、自分より語句や表現に長けている人たちのいる場所にいつもいたい、という気持ちが芽生えると、自然に言語能力を上げようとするようになります。
確かに学力格差は親の経済格差と関係してはいますが、それは子供の学力形成の要素の一つに過ぎないとも言えます。親が経済的に裕福であれば、それだけで子どもの学力も必ず高いというワケではないことは、これで納得できます。
その点で言えば、高収入の家庭は大抵が蔵書数も多く、博物館、科学館、美術館へ出向くなど、そういう文化的な刺激の注入が、子どもの学力の高さにも関わってくるのだと考えられます。「子どもと一緒に美術館や劇場に行く」「子どもと一緒に博物館や科学館に行く」「子どもと一緒に図書館に行く」という家庭は、子どもの学力を高められる可能性が十分にあります。
小さい頃から親と一緒に図書館に通う子どもたちは、自然に書物に親しみます。博物館、科学館、美術館などの文化施設に出向くことで、子どもたちの知的好奇心に影響が生まれます。そういうことを子どもに体験させていくことで、その後の学習意欲や言語能力の発達を促します。
学校でも、子どもたちに読書を勧めるよう取り組んでいます。このような学校側の姿勢もあり、近年は徐々に小学生の読書冊数が増えてきています。また、なかなか自宅での勉強に気乗りしない子なら学習塾へ通うようにするなどで、いざ受験の段階になってから急に勉強する人より大きく優位に立つことが可能です。
ただし、すべて学校や塾任せにせず、読書の習慣や言語能力を高められるかどうかは、家庭の環境が重要であることを忘れてはいけません。
家庭の蔵書数、親の読書姿勢、幼い頃からの親の読み聞かせ、図書館へ連れて行く、家で勉強しないなら塾で勉強する、など家庭環境と家族の習慣が大きく影響します。いくら学校が読書を勧めても家庭が知らんぷりでは効果が出ません。家庭でも同様に取り組むような姿勢が求められます。
http://www.isfj.net/
まとめ
今回は、学歴は親の収入に影響するかどうかを見てみました。この結果、塾や予備校や家庭教師など、ある程度は経済力が学力形成に関与しているのは確かであることがわかりました。その一方で、家庭での読書の習慣など、思考力を養成するのは親の姿勢や教育方針で違いが出ていることもわかりました。
学歴の全てが親の経済力で決まるものではないことが理解できたなら、あとは家族や自分がどう取り組んでいくか、そこが大切ですね。