日本の総合大学内に設立された医学部や、医科大学などは、全国で82校あります。
その中で、設立された年代が古い東京の私立の医科大学群をまとめて「旧八医科大学」と呼びます。
それぞれの大学の医学部、医科大学の偏差値や特徴をマナビバが紹介します。
慶應義塾大学医学部
「旧八医科大学」とは
「旧八医科大学」は、以下の八つの大学を指します。
- 慶應義塾大学医学部
- 東京慈恵会医科大学
- 日本医科大学
- 順天堂大学
- 日本大学医学部
- 昭和大学
- 東京医科大学
- 東邦大学
この八つの大学は、まとめて「旧八医科大学」と呼ばれます。
それぞれ、国を挙げて医療のレベルを挙げていくために20世紀初頭から次々と医学部が新設されていきましたが、その中でも早期に設立されている大学群が「旧八医科大学」です。
旧八医科大学の偏差値は!?
では、「旧八医科大学」の入試の難易度はどれくらいでしょうか。偏差値と倍率などの数値を見てみましょう。
医学部については、どの大学かに関わらず高倍率になります。医師を目指す人は医学部に入学しないと何も始まらないため、受験日程を見て受けられる限りは多くの学校を受験したい、という人が大勢いるからです。
特に、後期の日程は募集人数が少ないため、大変な激戦になります。
<旧八医科大学の偏差値と倍率>
大学名 | 偏差値 | 2023年度募集人数 | 前期試験倍率 | 後期試験倍率 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
慶應義塾大学医学部 | 75 | 110名 | 7.9倍 | ||
東京慈恵会医科大学 | 72 | 105名 | 7.4倍 | ||
日本医科大学 | 71 | 119名 | 11.5倍 | 62.1倍 | 地域枠あり |
順天堂大学 | 71 | 140名 | A方式10.3倍 B方式19.9倍 | 地域枠あり | |
日本大学医学部 | 67 | 110名 | 推薦入学の 人数で変動 | 推薦入学の 人数で変動 | 地域枠あり |
昭和大学 | 68 | 108名 | 10.4倍 | 51.5倍 | 地域枠あり |
東京医科大学 | 67 | 164名 | 7.9倍 | 地域枠あり | |
東邦大学 | 68 | 122名 | 20.3倍 | 地域枠あり |
以上のように、どの学校も偏差値が高く、倍率も高いです。
医学部の中では表現上は易しめということを言う人もいますが、そもそも医学部自体が非常に難関であることは間違いありません。
東京慈恵会医科大学
「旧八医科大学」の序列について
この「旧八医科大学」の大学群は、日本の大学の医学部全体の中ではどのようなグループ分け、位置づけにあるのでしょうか。
よく用いられている医学部のグループ分け、位置づけの中で、実は「旧八医科大学」は、まとまった1グループとしてではなく、「私立医大御三家」+「旧設私立医科大学」の中の上位に位置付けされる学校5校を加えた8校という構成になっています。
各グループと比べて見ましょう。
<医学部、医科大学のグループ分け>
医学部の大学群 | 大学群のグループ呼称 | 設立年代 |
---|---|---|
東京大学・京都大学・大阪大学・名古屋大学 東北大学・九州大学・北海道大学 | 旧帝国大学医学部 | 1886年~1939年 |
慶應義塾大学・東京慈恵会医科大学・日本医科大学 | 私立旧制医科大学 (私立医大御三家) | 1920年~1926年 |
千葉大学・岡山大学・金沢大学・新潟大学・熊本大学 長崎大学・(京都府立医科大学) | 旧制六医科大学 (旧六) | 1922年~1923年 |
東京医科歯科大学・広島大学・鹿児島大学・弘前大学 群馬大学・信州大学・鳥取大学・徳島大学 | 新制八医科大学 (新八) | 1946年 |
神戸大学・横浜市立大学・名古屋市立大学・岐阜大学 三重大学・札幌医科大学・福島県立医科大学・山口大学 大阪市立大学・奈良県立医科大学・和歌山県立医科大学 | 旧設公立医科大学 (旧設) | 1947年~1950年 |
順天堂大学・日本大学医学部・昭和大学・東京医科大学 東邦大学・大阪医科大学・久留米大学・岩手医科大学 関西医科大学・東京女子医科大学 | 旧設私立医科大学 | 1942年~1950年 |
秋田大学・旭川医科大学・山形大学・筑波大学・愛媛大学 浜松医科大学・滋賀医科大学・宮崎大学・富山大学 島根大学・佐賀大学・大分大学・高知大学・福井大学 山梨大学・香川大学・琉球大学・(防衛医科大学) | 新設医科大学・国公立 | 1970年代 |
杏林大学・北里大学・川崎医科大学・帝京大学 聖マリアンナ医科大学・愛知医科大学・埼玉医科大学 金沢医科大学・藤田保健衛生大学・兵庫医科大学 福岡大学・獨協医科大学・東海大学・近畿大学 | 新設医科大学・私立 | 1970年代 |
東北医科薬科大学・国際医療福祉大学 | 新設医科大学・2000年 以降 | 2016年~ |
以上のようなグループ分け、位置づけになります。
「慶應義塾大学医学部」「東京慈恵会医科大学」「日本医科大学」は「私立医大御三家」と呼ばれ、別格です。医学部のある大学としては、旧帝国大学の医学部に次ぐ格付けにランクされることもしばしばです。
次いで、偏差値や難易度の高い「順天堂大学」が御三家と並ぶくらいの人気と実力を誇ります。近年は、御三家に加えて順天堂大学で難易度の高い「ビッグ4」という評価があります。
また、早い年代に専門部医学科から医科大学に昇格した日本大学医学部は、御三家に次ぐ歴史と伝統があります。大きい大学であり、長年の研究実績もあるため格付けとしては上位に入ります。
「私立医大御三家」は別格として、他の5大学も旧設の国公立大学の医学部の次に位置付けされています。つまり、大学の医学部全体の中でも格が高く、実績もあって信用度が高い、という評価になっているといえます。
<受験校を選ぶ注意点>
長年にわたって言われてきた定説の一つで、古い学校ほど格上という見方があります。しかし、受験生の志望校の検討において、その格付けを見て受ける大学を決めることには直接つながらないかも知れません。
大事なことは、このグループ分けや位置づけを「格付け」として見て受験校を選ぶのではなく、自分の学びたい医療がそこにあるかを考えることです。
理想の医師像、求める医療体制づくり、突き詰めていきたい医学の内容をその大学で思うように勉強できるのか、そこを考えて志望校を選ぶのが賢明です。そもそも自分が医師を目指そうとする目的は何かを考えれば、ランキングの類は自分が合格できそうかの目安として見ておくのが妥当です。
順天堂大学医学部
旧八医科大学の特徴について
それぞれの大学について、特徴を紹介していきます。
<慶應義塾大学医学部の特徴>
立地が良く、人気の高い憧れの大学という高い評判があります。私立で最高峰の大学で歴史も長く、先輩後輩のつながりも強い大学です。
1年次は日吉キャンパスで、2年次からは信濃町キャンパスに移ります。1年生から夏休み期間に医療現場にて1週間の体験実習を行うなど、早期の実習プログラムがあります。
他の大学と比べると、1年生と2年生は医学部にしては割とゆったりした生活を送れているようですが、3年生からカリキュラムが厳しくなり、休んでいる余裕がなくなってきます。
政財界のよく知られる人が慶應義塾大学の病院へ運ばれた、というニュースを聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。医療界全体の中でも大きな存在感があります。
<東京慈恵会医科大学の特徴>
日本初の私立医学専門学校としてスタートし、部活動に参加する学生も多くいるなど自由な校風の大学です。入試の難易度は慶應義塾大学に次いでハイレベルです。
1年生は国領キャンパスで、2年生からは西新橋キャンパスに移ります。1年生は寮生活です。
放課後や休日にも学生が研究に打ち込み、大学も積極的に支援してくれます。1年生から患者接触プログラムがあり、学生たちは早期臨床体験や福祉体験実習などに参加します。
皇室の方々も慈恵医科大学の付属病院で検査を受けた、との話も時折り聞きます。信頼度が高い病院である証拠の一つになります。
<日本医科大学の特徴>
「私立医大御三家」の一角を占めるだけあり、難易度は地方国公立大学の医学部よりも難しいと言われています。
1年生は武蔵境キャンパスで、2年生は千駄木キャンパスに移ります。数年前までは留年者が比較的多かったことから、2019年には仮進級制度を設けて留年者を減らしています。
事前にデジタルデータで大学から講義資料が送られたり、講義の動画も見られ、さらに学生には電子カルテを臨床実習用に用いるなど、勉学の現代化が進んでいます。
医学英語教育にも力を入れており、通常の単位取得で学ぶ英語教育とは別に、実際に外国人の模擬患者を相手に医療面接の練習を行うなど、国際基準を満たすコミュニケーション能力を養っています。
<順天堂大学医学部の特徴>
医師国家試験合格率が高く、毎年全国平均を大きく上回る結果を出している優秀な大学です。入試の難易度は年々上昇し、今では慶應と慈恵に次ぐ難関です。
1年生は印西市さくらキャンパスで、2年生から本郷お茶の水キャンパスに移ります。1年生はスポーツ健康科学部とともに寮生活を送り、医学部以外の学生とも交流を深めます。
学内の試験問題への対策に特徴があり、他の大学は学生だけで試験勉強をしますが、順天堂は教員が過去問と模範解答を教えてくれます。学生はもちろん自主的に勉強しますが、教授陣や教務スタッフの手厚いサポートも好評であり、これが順天堂大学の評価を上げる一因にもなっています。
<日本大学医学部の特徴>
歴史のある学校で「私立医大御三家」の次に長い実績を誇ります。日本大学は日本最大のマンモス大学のため交流できる幅も広く、医学も含めて広い視野で学生生活を送れるのが特徴です。
比較的、入試の難易度が低いため、多くの受験生が併願校で受験します。その結果、試験の難易度は易しめでも受験者の倍率は高い傾向があります。
英語を実際に使う場面を想定した環境づくりに力を入れており、卒業までに英文の医学文献も読み、実践的な英語での診療ができることを目標にする国際化されたカリキュラムも用意されています。
近年は国家試験の合格率がやや低めになっているため、進級時のテストなどが厳しくなることが予想されます。
<昭和大学医学部の特徴>
昭和大学は、総合病院だけでなく地域中核病院やリハビリテーション病院、精神科病院、歯科医院の附属病院を八つ有しています。これが昭和大学の特徴であり、強みでもあります。
1年生は山梨県の富士吉田キャンパスで全寮制の生活を送ります。医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部の4学部から基本的に一人ずつ、同部屋に入ります。ここでチーム医療を生活を通じて学びます。
2年生からは都内品川区の旗の台キャンパスへ移ります。また、2年生から4年生までの3年間は週1回、昭和大学病院で臨床実習を続けます。
昭和大学は、私立の医科大学の中では学費が比較的安価であり、また国家試験の合格率も低迷せず、国際交流プログラムや早期に臨床技法を学ばせるなど、多方面の観点から評価が得られています。
<東京医科大学の特徴>
東京医科大学は1916年に開設された「東京医学講習所」から始まり、2023年で107年を経ています。私立の医科大学の中でも伝統のある学校です。
基礎と臨床を並行して勉強できるのが東京医科大学の特色です。例えば1年生で基礎医学を学びつつ並列的に6年生と同じ臨床医学系科目の「症例・病態学入門」などを受講できるようになっています。
また、人文科学系の科目を「人間学」として統合し、「態度教育」を行う独自のカリキュラムを編成し、「患者さんを診る能力」を養う教育にも力を入れています。
私立医学部の中では学費も高くない方に入ります。立地も都心の新宿で6年間通学できるので受験生からは好評です。人気のある大学の一つです。
<東邦大学医学部の特徴>
東邦大学は東京と千葉に付属病院を三カ所も有し計1,700床があります。医学部だけでなく薬学部・理学部(臨床検査技師課程)・看護学部・健康科学部も持つ医療系の総合大学です。
マルチメディア化した「解剖学実習室」など先端技術を用いた研究施設もあります。その充実した施設・設備を活用し、臨床実習を豊富に実施できるのが強みです。
キャンパスは都内の大森にあります。
入学すると「フレッシュマン・キャンプ」という学外合宿が実施されます。そこで学生同士の交流を図りつつ、10名程度の小集団に分かれてグループワーキングや救急蘇生法実習などが行われます。
このような小グループでの課題解決型のカリキュラムが東邦大学の特色の一つです。また、学生の意見や要望を反映できるようにフレキシブルタイムの学習時間が時間割に組み込まれています。これにより、学生は積極的かつ自主的に勉学に取り組む校風を生み出しています。
東邦大学医学部
旧八医科大学に匹敵する私立の医科大学は?
医学部のある大学は、国立大学42校、公立大学8校、私立大学は31校、そして防衛省設置の防衛医科大学校で計82校あります。
その中で、「旧八医科大学」の存在は全国の医学部で「歴史と実績の伝統校」から「中堅どころ」の範囲に入る位置づけになります。つまり、「私立医大御三家」を別格として除いても、全体的にはやや上位の格付けになります。
では、それに続く存在としては、どのような大学があるのでしょうか。
<旧八医科大学に続く私立医科大学>
- 大阪医科大学
- 関西医科大学
- 岩手医科大学
- 東京女子医科大学
- 久留米大学
以上の五つの医科大学が「旧八医科大学」に続く存在として見られています。
必ずしも格付けと偏差値が比例するワケではありませんが、受験生にとっては併願校の候補を考えるときの目安として見ておく材料になります。受験する科目と日程は自分の第一志望校を中心に考え、それに合わせられる学校を併願校の候補にします。
日本大学医学部
まとめ
今回は、「旧八医科大学」を紹介しました。八つの大学医学部、医科大学の偏差値や倍率、医学部を持つ大学全体の中の序列や格や評価、学校ごとの特徴、併願校になり得る他の私立医科大学などを説明しました。
医学部というだけでも他の学部より難関です。さらに、その医学部の中でも「旧八医科大学」は私立の医科大学の中で上位に入ります。特に難易度においては「私立医大御三家」は別格で、難関中の難関です。
医学部を目指す人は、以上のことを参考に受験勉強を早期に開始しましょう。