大学には「国公立か、私立か」「文系か、理系か」という大きな分け方があります。その理系の中で最も難易度が高いのは医学部です。
医学部は、医師・医者を目指す他、大学や国家機関あるいは民間企業の医療研究者など、高度な学問を続けて深い知識と生きた技術を身につけることが必要です。
それだけに、大学の医学部ではハードな学問研究についていける学生であることが求められます。当然に受験レベルは最難関です。
そんな最難関の医学部ですが、国公立大学同士でもヒエラルキーが分けられているのでしょうか。また、私立大学医学部とは相違点があるのでしょうか。
今回は、国公立大学の医学部でヒエラルキーがあるのか、についてマナビバが調査し、解説します!
国公立大学医学部のヒエラルキーは?
日本の医学部医学科は大きく4つの年代に分かれて設立されており、日本の医療の発展を目標に国家主導で大学の医学部の設立が進みました。基本的に、設立年代の古い方が格上に見られるような形になります。
国公立大学の医学部は全国で51校です。国立大学が42校、公立大学が8校、準大学が1校となっています。これらの国立大学の医学部に私立の医科大学を合わせてヒエラルキーを見ると、以下のような表になります。
医学部の大学群 | 大学群の概要 |
---|---|
東京大学・京都大学・大阪大学 名古屋大学・東北大学・九州大学 北海道大学 | 旧帝国大学の医学部 略称は「旧帝医」 1886年~1939年に設立 |
慶應義塾大学・東京慈恵会医科大学 日本医科大学 | 私立で旧制の医科大学 「私立医大御三家」とも呼ばれる 1920年~1926年に設立 |
千葉大学・岡山大学・金沢大学 新潟大学・熊本大学 長崎大学・(京都府立医科大学) | 旧制の六医科大学 略称は「旧六」 1922年~1923年に設立 |
東京医科歯科大学・広島大学・鹿児島大学 弘前大学・群馬大学・信州大学・鳥取大学 徳島大学 | 新制の八医科大学 略称は「新八」 1946年~1948年に設立 |
神戸大学・三重大学・岐阜大学・山口大学 福島県立医科大学・和歌山県立医科大学 名古屋市立大学・奈良県立医科大学 札幌医科大学・横浜市立大学・大阪公立大学 | 旧設の公立医科大学 「旧設」とも呼ばれる 1947年~1950年に設立 |
順天堂大学・昭和大学・東京医科大学 日本大学医学部・大阪医科大学・久留米大学 岩手医科大学・関西医科大学・東邦大学 東京女子医科大学 | 旧設の私立医科大学 1942年~1950年 |
秋田大学・山形大学・筑波大学・愛媛大学 浜松医科大学・滋賀医科大学・富山大学 島根大学・佐賀大学・大分大学・高知大学 福井大学・山梨大学・香川大学・宮崎大学 旭川医科大学・琉球大学・(防衛医科大学) | 新設医科大学・国公立 1970年代に設立 |
杏林大学・北里大学・川崎医科大学・帝京大学 聖マリアンナ医科大学・藤田保健衛生大学 愛知医科大学・埼玉医科大学 金沢医科大学・兵庫医科大学・獨協医科大学 福岡大学・東海大学・近畿大学 | 新設医科大学・私立 1970年代に設立 |
東北医科薬科大学・国際医療福祉大学 | 新設医科大学 2016年以降に設立 |
以上のように医学部の大学群が幾つもあり、それがヒエラルキーの各階層を形成するような様相です。
旧帝国大学の医学部を筆頭に、実績の高い大学の医学部を出ると、就業後のキャリア形成にも有利と言われています。
また、臨床や医療よりも医学の研究に一生を費やしたいなら、その最高位は「医学部教授」でしょう。
医学部の教授になりたい場合は、やはり旧帝国大学医学部の出身者が断然に優位になります。学閥の恩恵を受けられたり、主要な大学病院や関連病院で上位のポストも狙えます。
ただし、医学部の伝統的序列は絶対的なものではありません。
東京医科歯科大学
国公立大学医学部の特徴
<共通テストがある>
国立大学と公立大学の医学部入試の特徴は、まず「大学入学共通テスト」を受けることです。
医学部でしかも国公立大学ともなれば、他の理系学部で言うとほぼ東京大学や京都大学に合格するのと同じくらいの学力が必要と思っておくぐらいで丁度いい、と言われています。
国公立大学の医学部は、共通テストで85%以上、難関の大学では90%以上を得点しなければならないとされています。
昔から国公立大学向けの試験として一斉に試験を実施する「共通一次試験」「センター試験」がありましたが、それが「共通テスト」に名称を変えても同じです。今までと同様の得点率が求められます。
一次試験となる大学入学共通テストでは5~7科目が課されます。その後に行われる二次試験では筆記試験に加えて小論文や面接が必要な大学が多くあります。
したがって、幅広く受験対策をする必要があります。大学入学共通テストの結果によって第一次選抜(足切り)が実施されることがあり、基準となる点数を下回れば二次試験に進めません。
合格するためには広範囲の科目で学力をつけておくことが重要です。また、小論文ではマニュアル通り、型通りの文章だけでは高い評価にならず、面接も自己の考えやコミュニケーション能力など人物像を見られます。
<学費が安い>
まず、医学部の学費がどれくらいなのか、見てみましょう。
大学 | 6年間の学費 |
---|---|
国公立大学医学部 | 約 3,500,000円 |
国際医療福祉大学 | 約20,800,000円 |
川崎医科大学 | 約45,500,000円 |
国公立大学は、年間の授業料が535,800円です。
6年間でかかる学費と入学金を足すと3,496,800円です。したがって、大まかに国公立大学の医学部の学費は合計で約350万円です。
これに対して私立の場合は、学校によって異なりますが、かなり高額です。
現状で私立の医学部のなかでは最も安い国際医療福祉大学でも初年度に450万円を、2年目以降は毎年280万円の学費を支払います。
最も高額なのは川崎医科大学で、初年度だけで入学金や学生寮費を含めて1225万円かかり、2年目から700万円になります。
つまり、国立の約350万円に対して私立は約6倍〜13倍もの学費が必要です。
これを見て明らかなように国公立大学は学費が安いので受験生に人気が高くなります。その結果、倍率や偏差値も上がる傾向にあります。
そうなると、医学部に入ろうと思えば国公立大学は非常に難関になり、ヒエラルキーの序列を見て受験校を決めるのは賢明ではなくなります。
私立大学医学部は授業料が非常に高額ですが、開業医を目指すならどこの大学というよりも先ず合格できる大学を探すのが優先になります。合格最優先なら、医学部の伝統的序列はあまり重要視されません。
<難易度が高い>
次は、国公立大学医学部の入試がどれくらい難しいのか見てみましょう。
偏差値 | 国公立大学・省庁大学校 |
---|---|
76 | 東京大学 |
75 | 京都大学 |
74 | |
73 | 大阪大学 |
72 | 東京医科歯科大学 |
71 | 名古屋大学、防衛医科大学校、東北大学、神戸大学 千葉大学、九州大学、大阪公立大学 |
70 | 横浜市立大学、奈良県立医科大学 |
69 | 京都府立医科大学、山梨大学、北海道大学 広島大学、筑波大学、名古屋市立大学、岐阜大学 |
68 | 金沢大学、岡山大学、新潟大学、和歌山県立医科大学 長崎大学、熊本大学、三重大学 |
67 | 群馬大学、信州大学、滋賀医科大学浜松医科大学、宮崎大学 鹿児島大学、大分大学、山口大学 |
66 | 島根大学、香川大学福井大学、鳥取大学 愛媛大学、高知大学、富山大学 |
65 | 旭川医科大学、札幌医科大学、琉球大学 秋田大学、佐賀大学、福島県立医科大学 |
64 | 山形大学、弘前大学 徳島大学 |
以上が国公立大学医学部の難易度一覧です。
言うまでもなく、非常に難関です。最も難度の低い山形大学、弘前大学、徳島大学でも旧帝国大学の理学部や工学部、農学部など一般的な理系学部と大体同じくらいの偏差値が必要です。
また、同じ医学部でも、大学の試験方法や出題傾向によって難易度が異なり、あるいは人それぞれの得意・不得意も出てきます。
特に、医学部はその典型です。併願できる学校の有無、共通テストの結果によって志願変更が利くかなど、志望校を決定するまでに見ておかなければいけない所があります。
基本的には二次試験の内容が似ている大学を選ぶ人が多数派です。行きたい大学を順に志望校として決めたい気持ちも理解できますが、受験する科目が違うのは大きく不利になります。
また、同じ科目でも記述解答の形式が違ったり、オーソドックスな設問を多く出す学校と、その学校ならではというオリジナリティ色が強い所とでは、対策の立て方が違ってきます。
国公立大学の医学部に合格するには
国公立大学の医学部の入試は、
- 試験問題が難しい
- 受験倍率が高い
- 試験の科目数が多い
以上の3点において、これだけでも大変なことがわかります。他の学部や私立大学よりも余計に勉強時間を確保しなければいけません。
高校3年間トータルで、およそ6,000時間近くはみておきましょう。旧帝国大学は6,500時間以上、くらいと思っておきましょう。
医学部受験の浪人生は、浪人している1年間だけで4,500時間くらいは受験勉強をします。高校で勉強した上に、さらに4,500時間も上乗せしてきた先輩と競争することを考えたら、短い勉強時間での合格はミラクルというほかありません。
高校1年生は最低でも週30時間以上、2年生は週40時間以上、3年生は週50時間以上、のつもりでおきましょう。風邪や修学旅行、文化祭、体育祭など勉強を進められない所も計算して計画を立てないと、間に合いません。
医学部に関しては、他の学部以上に私立大学の上位校と国公立大学の併願受験は難しいと言えます。
私立大学の医学部だけを狙う人は、試験科目数が少ないので1科目あたりに費やす学習時間をかなり多く確保できます。もし私立大学も併願しようとするなら、その私立大学受験に絞って勉強している受験生より高い得点が必要です。
これを考えると、どっちつかずの学習は避けて、国公立なら国公立に向けた学習をするのが賢明です。国公立と私立の両狙いは、どれだけ困難な作業になるか想像に難くありません。
東京医科大学
国公立大学医学部の卒業後は?
国公立大学の医学部を卒業した後は、どのような進路に行くのでしょうか。
これについては、国公立大学か私立大学かというよりも、本人の向き・不向きに起因するところが大きいです。
具体的には、
- 開業医になる
- 勤務医になる
- 国の研究職員になる
- 保健所など自治体公務員(医系技官)になる
- 民間企業に勤める
- 大学の先生になる
以上の6方面が主に考えられます。
ここでは、どこかの病院の医師として働く前提で話を進めます。
卒業後にどこの病院に勤務するかについては、現在の制度で「マッチング」と呼ばれる研修と就職のシステムがあります。
研修したい病院の試験や面接を受け、合格すれば、どこの大学出身かに関係なく行くことが可能です。 そういう意味では国公立大学の医学部卒と私立大学の医学部卒との差はありません。
医師としての業務は、医師免許を持っていれば、国立か私立かの違いはありません。
ただし、 学閥はあります。例えば地方では、そこの地域の国公立大学の同窓生が多くなります。特に旧帝国大学がある地域はその勢力が強いとみて間違いありません。
一方で、 首都圏など大都市圏は国公立大学と私立大学が多数あるため、それぞれの関連病院にはその大学の出身者が多くなるのが自然です。大きい大学と大きい病院ど、その勢力テリトリーが近隣の県にまで及ぶ傾向があります。
どの大学の出身か、というのは医学部でも他の学部でも、一生ついて回るのは確かです。モチロン本人が気にしない、周囲も気にしない、ということも大いにあります。
ただ、出身の学校がその人を表す一部であるのは事実で、実際に医療の業界は仲間意識も強く、同窓生であるかどうかで交流の場も違ってくることは十分にあります。
まとめ
今回は、「国公立大学の医学部でヒエラルキーがあるのか?マナビバ調査!」のテーマで書き進めました。
歴史や伝統のある大学は、それだけ研究実績や医療界への貢献も多大なため、古い大学の医学部ほど格が上の傾向があります。つまりヒエラルキーが高いということになります。中でも旧帝国大学は別格になります。
医学部というだけでも東京大学や京都大学と同じくらいに合格すのが難しいと言われていますが、さらに国公立大学となれば本当に最難関です。ザッと見て6,000時間に近いくらいの勉強時間が必要で、旧帝国大学なら優に6,500時間は超えると承知しておきましょう。
国公立大学は共通テストがあり、さらに二次試験があり、その難易度は高いということがわかりました。また、学費は私立大学と比べると非常に安いです。
卒業後は、基本的には医師免許があればやることは出身大学に関わらず同じように医療の業界で働くことになります。そこは本人の向き・不向きにより勤務医や開業医、研究職、大学教授、公務の医系技官など様々です。
以上のことを踏まえ、医学の道を志す人は、必要な準備を十分にして臨みましょう。