古くから「看板学部」と言われる学部は、大学の起源に深く関わります。
旧帝国大学は設置当時から基本的に理系学部ばかりでした。それに対してほとんどの文系学部は戦後に追加設置されています。
実際に、旧帝国大学は理系学部がメインと言われることが多いです。そのメインの学部を「看板学部」と呼んでいます。
もちろん文系学部も十分に立派な設備があり、優秀な教授陣がりいます。 研究力にかける予算は、理系は当然ですが文系も国内で上位に入ります。
では、有名な旧帝国大学において、それぞれの「看板学部」はどこになるのでしょうか。
今回は、旧帝国大学で「看板学部」はどの学部なのか、マナビバが調査します!
京都大学理学部
旧帝国大学の看板学部
<東京大学>
東京大学といえば大学入試最難関と見られている理Ⅲかと思われがちですが、今回の「看板学部」には法学部を選びます。
官僚への入り口と言われており、現に東京大学法学部には優秀なエリートが揃っています。かつては「東大法学部中退、外務省入省」がエリートの最短コースであったとされています。
今でこそ官僚も多様性がありますが、日本の3大省庁の財務省、外務省、経済産業省のキャリア公務員へは東京大学法学部出身がほぼ必須です。
理系も医学部や理学部などの生命系など非常に強く、いうなれば東京大学そのものが看板であり、全ての学部が極めてハイレベルであることは間違いありません。
ただ、歴史を見ていくと法学部を「看板学部」とすることに異論はないでしょう。
東京大学法学部
<京都大学>
「京大」こと京都大学では、「看板学部」は理学部の一択になります。
西日本の最難関大学に恥じない学部が「京理」の愛称で知られる京都大学理学部です。日本で最初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹博士の出身であり、生命科学や物理学の研究成果は東京大学を凌駕すると言っても過言ではありません。
最も名門の形容に値するのは理学部で、ノーベル賞受賞者日本一を誇ります。
ただ、就職ではあまり良い結果が得られないと言われるところもあり、その点では医学部に分があります。iPS細胞など話題になっている医学部も好調です。
他にも、現代の京都大学には総合人間学部などユニークな学部もあり、自由な校風の京大生が伸び伸びと学生生活を送る拠点の一つになっています。
どの学部もスゴいと言えばそれまでですが、その中でも理学部は特にスゴい学部です。
<大阪大学>
「阪大」の大阪大学といえば医学部です。
旧制大阪帝国大学は、江戸時代の緒方洪庵の私塾「適塾」を起源とする官立の大阪医科大学を中心に設立された経緯があります。 年度によっては、国からの医学分野の研究予算で東京大学を上回ることもあります。
キャンパスを見ても、大学側が医学部を移転させずに長く中の島に置いていたことで「看板学部」であることが明確になっています。
次いで理学部です。1931年、大阪大学ができた当時からあったのが医学部と理学部です。 総長もこの両学部から交互に選出されることが多いようです。
初代総長の長岡半太郎も物理学者で、 湯川秀樹が中間子理論の論文を書いたところも大阪大学の研究所でした。創立の経緯上やはり生命科学に強く、それに応じて理学部も大変優秀です。
大阪大学は、地域的に京都大学と比べられてお株を奪われがちですが、医学部も理学部も優秀です。
ただし、ドラマ「白い巨塔」の舞台である医学部の脳神経外科があるなど、やはり医学部が別格でしょう。
<東北大学>
東北大学は、旧帝国大学の中で近年注目を浴びている工学部が「看板学部」です。
東北帝国大学は、前身となる官立高等工業学校の仙台高等工業学校の流れを組む名門中の名門です。 工学分野の研究予算は、東京大学に次いで2位です。
旧帝国大学の工学部の中では比較的入試難易度が低いですが、学部2年生から研究室配属がなされ早いうちから最先端の研究に携わることができるメリットがあります。
特に材料系の研究成果は圧倒的なものがあります。海外でも学生が東北大学の論文を見ており、その被引用数は世界でも群を抜いています。
本部設立後に前身の仙台高等工業学校と仙台医学専門学校を包括して成立した経緯から、医学部も名門です。医学分野の研究予算も日本で指折りですが、今回は工学部をを「看板学部」とします。
<名古屋大学>
「名大」で知られる名古屋大学ですが、「看板学部」は理学部です。
名古屋大学は戦後に新設された帝国大学の中でも最も後発です。歴史が比較的浅く、これといった大学を起源とはしないため、特に看板学部はないとも見られがですが、近年のノーベル賞ラッシュでクローズアップされている理学部が妥当と言えます。
2008年に「三つのクォーク」の時代に「六つクォーク」があることを予言し、その理論をもってノーベル物理学賞を受賞した小林誠名誉教授、益川敏英教授のダブル受賞は記憶に新しく、理学部の躍進が目立ちます。
大阪大学が「商都に帝国大学がないのはおかしい」として設立要求をしたのと同様に、名古屋大学も日本の三大都市圏の一つである中京圏に帝国大学が必要だとする見方は然るべきでしょう。
名古屋大学の「看板学部」が理学部であるのは今後も変わりませんが、国立の岐阜大学と合併したことで大学の運用のあり方は少し変わっていくかも知れません。
名古屋大学理学部
<北海道大学>
「北大」の呼称で知られる北海道大学の「看板学部」は、農学部です。
北海道帝国大学として独立する時の中心的な学部が農学部です。北海道大学の前身である札幌農学校は、もとは東北帝国大学農科大学でした。それが現在の農学部です。
北海道開拓の歴史とともに歩み、日本で初めて学士を授与する教育機関であり「Boys, be ambitious!」で知られるクラーク博士が在任していました。こういう経緯からしても「看板学部」は農学部になります。
この他には、獣医学部と水産学が評価されています。獣医学部は日本の獣医界の頂点であり、国内で最も優秀な学生が在籍していると言われます。水産学部は研究環境が高く評価され、海外から留学生も多数訪れています。
北海道大学には、このように農学部の他に獣医学部と水産学部もあり、農学系学部が3つもあるのは旧帝国大学では北海道大学だけです。また、農学分野の研究予算は、東京大学、京都大学に続く3位です。
<九州大学>
「九大」と呼ばれる九州大学の「看板学部」は、ここでは工学部とします。
工学部には12学科があり、特に航空宇宙工学科は抜群の人気をがあります。また船舶海洋工学科も知名度があります。両学科とも全国でトップクラスの研究施設が用意されています。
その他にも土木工学科も有名です。その実績は東京大学や京都大学にも匹敵すると言われるほどです。
工学部全体で多数の留学生を招き入れたり、日本の学生が英語で工学の講義を受けて単位取得できるなど、国際化にも力を入れています。このような大学の取り組みなどを見ても工学部がメインの学部と考えられます。
もともとは医学部が「看板学部」でした。九州大学として独立する前は京都帝国大学福岡医科大学でした。そこを起源とする医学部は旧帝国大学でも3番目に歴史を持つ伝統的な学部です。
九州大学工学部
旧帝国大学は、他の大学とどう違うの?
旧帝国大学は、明治時代に国の主導で開設されました。
それにより、
- 産業育成のためモノを研究、製造できるような学部を設置
- 国民の生命と健康を守る医療分野の学部を設置
- 後進を指導できる研究者と教育者を多く輩出する施設が必要
以上の3点を優先して運営することが求められました。
したがって、それ以外に該当する学部は設置を後回しにしていました。大雑把に言えば、理系の学部を創設していくことが急務であり、文系の学部は余裕があれば後から追加して設置していく、というのが当時の状況でした。
それに対して、戦後に創られた地方の国公立大学は、広く国民に教育を普及する目的も含まれていたため、様々な学部が創られていきました。
ただし、国立大学も公立大学も、多くの税金が投入されているため、やはり産業育成に役立つ学部や科学技術の進展に関わる学部を優先して設置するのが当然という考えには変わりません。
以上のように、往々にして国公立大学はそもそもが理系の学部を中心にして編成されているということです。その中の最たる所が旧帝国大学と思っておけばいいでしょう。
この経緯を見ると、旧帝国大学の「看板学部」は、自ずから理系の学部であるということがわかります。
ただし、東京大学法学部は別の点で「看板学部」になりました。
理系以外で、戦後の日本の復興と、将来の国の幹部となる人材を育成して送り込むという重要な役割を担った東京大学の法学部は、後発ながらも活躍の甚大さを見て徐々に「看板学部」の座についていった、という事例です。
私立大学に至っては、まず大規模な研究施設を設置する資金が足りません。
それよりも、自由民権運動など国民の気運や、法律の整備、経済界の発展など理系以外の分野に目をつけて文系の学部が設置していくほうが大学として拡充しやすい事情がありました。
明治時代の大学令で私塾や専門学校から大学化された慶應義塾大学や早稲田大学が代表例です。歴史的背景が現在のそれぞれの大学で強みになっている傾向があります。
こうして、国立大学は理系学部が中心であり、私立大学は文系学部が中心になったという点で大きな違いがあります。
「看板学部」についてですが、旧帝国大学では東京大学、京都大学、大阪大学の3大学は少し意味合いが違ってきます。
全ての学部が立派で有能なことを考えると、大学内で「看板学部」を改まって認定することにあまり意味がないと思われるからです。
どこをとっても十分な予算が配分され、 立派な施設があり、優秀な学生が集まり、実績のある教授陣が揃うのが東京大学、京都大学、大阪大学です。この大学の学内では、学部ごとの優劣を決めるのは実際にはなかなか難しいところです。
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北海道大学農学部
目玉学部かそれとも名門学部か
「看板学部」には伝統と実績によって自然と看板になっていった「名門」の学部と、大学側が宣伝して学生を集めたり他大学にはない新たな分野や珍しい分野が着目されて「目玉」になった学部とで、少々の違いがあります。
旧帝国大学では、歴史的な経緯で「看板学部」となった学部がほとんどです。もっと言えば、七つの旧帝国大学の全てが創設当初から現代までの経緯を見て自然に「この学部が看板学部だ」として広く認知されていった、ということです。
大学が、我が校を発展させたいとの戦略的、意図的な考えで「看板学部」を創ったのではなく、自然な進み具合で実質上の「名門学部」が「看板学部」と同義になった、と見ておくのが妥当です。
一方、現代の受験に関わる人たち、特に受験生の間では、その大学の中で最も難易度の高い学部が「看板学部」であるという認識をしていることが多いようです。また、そういう風潮に違和感を持たない時代になってきている雰囲気を否めません。
あるいは私立大学や新設の国公立大学では、歴史的な経緯よりも、いかにして学生を集めるかという意味で「目玉学部」をそのまま「看板学部」とするところが一般的になっています。
現代では、難易度の高い学部、または注目を浴びそうな学部が「看板学部」となっているのが受験界での見方になってきています。
もっとも、今後の時代に必要で注目されている学部や、模擬試験の偏差値が高くて受験生から一目置かれているような学部を「看板学部」とする見方が悪いワケではありません。それも一つの考えです。
ただ、こと旧帝国大学となると、そういう見方は当てはまらずに、依然として名門学部以外は看板学部にあらず、の考えは今後も変わらないでしょう。
東北大学工学部
まとめ
今回は、「旧帝国大学の看板学部とは?」のテーマで書き進めました。
- 東京大学:法学部
- 京都大学:理学部
- 大阪大学:医学部
- 名古屋大学:理学部
- 東北大学:工学部
- 北海道大学:農学部
- 九州大学:工学部
以上が大学ごとの「看板学部」です。
国が旧帝国大学を創設した経緯と、現代までに活躍してきた度合い、他の大学も含めて見たときの希少価値などを総合的に判断すると、このような結果となります。
現代風の偏差値が高いかどうかだけで見てしまうと、それこそどこの大学も医学部が「看板学部」になってしまいます。ここは、歴史的な伝統や実績を見て「名門の学部」と思われているのが当然とされる学部を「看板学部」としました。
「看板学部」は簡単には合格できません。その大学で最も人気が高く、社会的にも評価されています。だからこそ、その「看板学部」を目指すことに大きな価値が出てきます。
大阪大学医学部